わずか5秒でふわりと離水◆荒波も問題なし、オンリーワン飛行艇「US-2」に乗ってきた【自衛隊探訪記】
海上自衛隊が保有する救難機「US-2」は世界で唯一、波の高さが3メートルある海面にも降りることが可能な水陸両用の飛行艇だ。豊後水道で行われた救難訓練に同行し、「空飛ぶ船」の迫力の離着水を体験した。(時事通信社会部 釜本寛之) 【写真】船底のようになったUS-2の機体下部 ◇広い日本のEEZ、くまなくカバー 訪れたのはUS-2が所属する海自岩国航空基地(山口県)。快晴の滑走路にネービーとグレーのツートンカラーの機体が止まっている。全長33.2メートルの機体はずんぐりしたイメージだったが、正面から見ると胴体はスリム。船底のような形になっている機体下部には、溝形の波消し装置や「スプレーストリップ」という出っ張りなど、着水時に波から受ける衝撃を和らげる独自の工夫を凝らしてあるという。 US-2の主な任務は海難事故の捜索救助や、離島や航行中の船舶で発生した急病人の搬送。発着に陸上の滑走路を必要としないため、広い海の真ん中や滑走路がない離島もテリトリー。最高速度の時速約580キロは航空機としては遅めだが、ヘリコプターの2倍近く、最長約4700キロの航続距離は約5倍に及び、船で2日かかる距離も6時間余りで到達可能。ヘリでは遠過ぎて行けない、船だと時間がかかりすぎる現場でもUS-2なら救助可能だ。2013年にヨット太平洋横断中に遭難したニュースキャスター辛坊治郎さんを、宮城県沖約1200キロで救助したケースはUS-2でないと無理な現場だったという。 硫黄島や南鳥島などにある自衛隊の拠点で補給すれば、約447万平方キロに及ぶ日本の領海と排他的経済水域(EEZ)をくまなくカバーできるといい、隊員は「海洋国家日本にとってなくてはならない機体」と胸を張る。 ◇最短距離であっという間に空へ タラップを上がり、いよいよ機内へ。乗員は11人。後方からボートや救難機材を置く貨物室、通信機器などの運用スペース、その前にわれわれの座る座席と続き、操縦席は一段高くなった場所。床下は機材などを入れる大きな収納スペースとなっていた。 自衛隊と米軍、民間機が共用する岩国空港。東側の海にはUS-2専用の洋上飛行場スペースも設けられており、スロープで空港とつながっている。そこから飛び立つことも可能だが、利便性から通常は空港の滑走路を使うそうだ。エンジンが動きだし、離陸を待つ。「普通の飛行機と違って、あっという間に飛びますよ」。そう言われていたが、まさにその通りで、走り始めてから10秒足らず。加速で崩れた姿勢を戻した時にはもう窓から陸が見えていた。 岩国空港には長さ2440メートルの滑走路があるが、US-2は約500メートルあれば十分。その秘密はBLCという装置で、4基のエンジンとは別にBLC専用エンジンで発生させた圧縮空気を主翼や尾翼の表面に吹き付けることで揚力を増している。US-2だけが実用化した仕組みで、時速約90キロで飛行や離陸が可能だという。高速道路を走る車より遅く飛んでも失速しないのは驚きだ。