小田急電鉄、「Claris FileMaker」を導入--運転士や整備士など現場担当者がローコードでアプリ開発
小田急電鉄は、ローコード開発ツール「Claris FileMaker」を導入した。同社では、リスキリングを通じて人材育成を進めており、運転士や車両整備士など現場を熟知した担当者が自ら業務アプリケーションを内製開発している。これにより、社内のDXを推進し、安全な運行と顧客サービスの向上を実現している。Claris Internationalが11月13日に発表した。 小田急電鉄ではそれまで、業務システムの開発を外部ベンダーに発注していた。鉄道事業の現場を熟知していない外部ベンダーと開発を進めるためには、細かい要件定義やリリースまでの時間、改修のたびの時間や追加コストなどがかかり、システム改善のボトルネックとなっていた。 そこで同社は、コストを抑えながらも現場に必要なシステムを社内で構築できる、ノーコード/ローコード開発による内製化ツールの検討を始めた。運転、駅、車両、電気、工務など、部署単位で異なるノーコード/ローコード製品を導入することで起こり得るデータ統合の複雑化と非効率化を問題視し、ノーコード/ローコード製品の中で開発自由度と汎用(はんよう)性が高く、リリース後も機能の改善や修正、アジャイルで新機能の追加開発ができるClaris FileMakerを鉄道部門の統一ツールとして採用した。 2022年度から内製開発に着手し、FileMakerの導入から2年で10以上のシステムを稼働させている。業務アプリケーションのリリース後も現場ユーザーからのフィードバックを反映しながら機能を改善し、システムの価値を高め続けている。DXに対する社内風土の変化、またコスト面や業務効率性の面でもFileMakerの導入効果が出ているという。 「安全コミュニケーションシステム」は、通達・指示の掲示、ヒヤリハットの共有、報告書の作成など、鉄道運行の安全に関する情報を共有するための情報コミュニケーションツール。交通企画部のDX推進担当(元運転士)が初めてFileMakerを使い、18カ月を費やして開発したという。3000人の社員が利用する大規模なシステムのリプレースであるため、Claris Platinumパートナーの寿商会から内製化支援トレーニングを受けながら開発を進めた。 既存システムのOSサポート切れを機に、FileMakerで新たにシステムを内製開発し、数千万円のシステム更新費用と年間数百万円以上の保守費用を削減した。運転士時代の現場経験を生かし、報告書のテンプレート化など、乗務員の作業負荷を軽減する機能も追加しているとのこと。 「列車運転情報確認ツール」(通称:れっけん)は、列車番号などから担当乗務員の行路情報をiPhoneやiPadから素早く確認できるアプリになる。運転車両部の運転士が3カ月で開発した。 以前は行路情報を表計算ソフトで管理しており、PCからしか閲覧できなかったため、乗務現場には紙のダイヤグラムを持ち歩いていた。れっけんのおかげで、どこからでも行路情報を確認できるようになり、特に運行異常などで予定と違う列車を担当する際にも簡単に調べられるようになった。平常時の作業効率も向上し、年間合計約2700時間の削減に成功している。 「特急料金検索アプリ」の導入により、顧客対応の時間が短縮されただけでなく、英語表記を追加することで、外国人客にも画面を見せながら明確に料金を提示できるようになった。従来は鉄道料金表と電卓を使って計算していたが、臨時停車する列車や地下鉄・JRが絡む料金計算は複雑で、ベテランの車掌でも時間がかかることがあったという。 「個人貸与工具台帳システム」は、運転車両部車両担当の現業係員が会社から貸与されている工具を管理するアプリである。運転車両部の車両担当が3カ月で開発した。以前は紙の台帳で管理していたものをデジタル化し、iPadで管理できるようにした。これにより、ペーパーレス化や管理業務の効率化が進み、職場ごとに異なっていた運用方法を統一できた。