Netflix幹部が明かす世界ヒット連打の仕組み 「グローバル、全く狙わない」
劇場内のスクリーンに、灰色の世界地図が映し出された。ほどなくして韓国の辺りがピンクに色付き、端に表示された時間の経過とともに視聴者数を示す棒グラフが地図の上で伸び始める。その波は数日で東南アジアに広がり、1~2週間後には欧州、米国、中南米へ。ひと月後には中国やロシアを除いた多くの地域がピンク色に染まっていた。 【関連画像】世界でヒットした主な非英語の作品(写真=ネットフリックス提供) この地図は、米ネットフリックスが9月に配信した韓国の料理対決番組『白と黒のスプーン ~料理階級戦争~』が世界中に視聴者を広げていく様子を図示したものだ。「製作した地域で暮らしている人たちを引き付ける番組や映画を作り、さらに誰もが簡単に視聴できるようにする。それが我々の戦略だ」。同社のベラ・バジャリア最高コンテンツ責任者(CCO)はスクリーンの前に立ち、こう意気込んだ。 11月下旬のこの日、ネットフリックスは英語以外の言語圏で作られた作品を集めた発表会を米ロサンゼルスで開いた。コロンビアの小説家である故ガブリエル・ガルシア=マルケス氏の代表作を映像化した『百年の孤独』、日本の時代劇『イクサガミ』、2021年に社会現象になった韓国ドラマ『イカゲーム』の続編……。欧州やインドを含め、普段は世界各地で製作を指揮している幹部らが一堂に会して披露した作品の数は25作を超えた。 世界各地で作品を作り、世界各地で視聴してもらう――。米メディア各社が事業モデルの転換に苦戦するなかで、ネットフリックスが「一人勝ち」を続けている理由の一つだ。9月末時点で2億8272万に上る契約世帯数のうち、約7割は北米以外。11月29日時点の時価総額は3790億ドルに上り、米メディアの老舗であるウォルト・ディズニー(同2127億ドル)とコムキャスト(同1652億ドル)の合算値に相当する。 ●世界でのヒット「全く考えていない」 米国外が成長のけん引役になっていることもあり、ネットフリックスの取材ではほぼ必ず「現地の視聴者を引き付ける」といった話題が出る。今回の発表会でもバジャリア氏は同様の趣旨の発言をしていた。一方で、世界の会員の80%が韓国作品を見ており、23年は米国でも総視聴時間の13%を英語以外の作品が占めたといった数字も明かされた。各地で作られたコンテンツが他地域でも視聴される「トラベラビリティー」は紛れもなく同社の強みだ。 実際のところ、世界でのヒットをどの程度意識してコンテンツを製作しているのか。発表会を終えたバジャリア氏に直接尋ねると、同氏は迷いのない表情で即答した。「全く考えていない」 バジャリア氏は理由をこう説明する。「もし『国際的な番組を作ろう』と言ったら、『韓国人とドイツ人とフランス人を出演させよう』と考える人が出てくるでしょう。私は『それはダメだ』と言う。幅広い層に受け入れられるように作ろうとすると、かえって内容が薄くなるからだ。過去に成功した作品を振り返っても、韓国の『イカゲーム』やドイツの『皇妃エリザベート』など地域に根差したコンテンツが多い」 地域の視聴者に向き合った作品が受けるのは「生々しさがあり、多くの人々が『自分たちにも通じる』と感じて見始めるからだ」と、バジャリア氏は続ける。「トラベラビリティーを考えすぎてしまうとリアルさが失われ、ちょっと米国っぽい、ちょっとドイツっぽいといった、誰にとっても中途半端な作品になってしまう」 『イカゲーム』のような既に世界で大ヒットした作品の続編でも、考え方は変わらない。アジア太平洋地域(APAC)のコンテンツを統括するキム・ミニョン氏は「私たちは依然として韓国での評価を重視している。トラベラビリティーを意識して妥協することは決してない」と強調した。