熱海土石流発生3年 静岡県警、立件視野に続く捜査 業者、行政の聴取重ねる
熱海市伊豆山で発生した大規模土石流は、不適切に造成された盛り土が起点になった。静岡県警は28人が犠牲になった原因と法的責任の所在とともに、過失などの有無を主な焦点とし、業務上過失致死容疑などでの立件を視野に捜査している。造成業者側と一連の行為を食い止められなかった行政側。県警は土地の現旧所有者らだけでなく県、市職員まで捜査対象を広げ、一部職員には20回以上の任意聴取を行った。3日で発生から3年。遺族の思いを背に続ける捜査は着実に進む。 遺族1人が現旧所有者を業務上過失致死容疑などで刑事告訴したのは2021年8月17日。県警は10月28~29日、神奈川県や静岡県、都内にある現旧所有者の関係先など約20カ所を家宅捜索。土石流の発生から3カ月余り、告訴から2カ月で本格的な捜査に着手した。 遺族5人が11月10日、現旧所有者を殺人容疑でも告訴し、熱海署は12月6日に受理。殺人罪での立件は「ハードルが極めて高い」(捜査関係者)とされる中、22年1月26日には、土砂の運搬・搬入に関わったとみられる神奈川県内のダンプ事業者など、十数カ所の家宅捜索に踏み切った。 熱海署内に捜査本部の「帳場」を設け、捜査員は膨大な資料を入念に読み込んだ。事件の構成要件になり得る期間や事象が長期かつ多岐にわたり、関与したとされる人物が多いこともあり、この段階で「捜査は数年かかる」(当時の捜査幹部)との指摘はあった。 22年8月16日。遺族らが斉藤栄熱海市長を業務上過失致死容疑で告訴すると、県警は10月に受理。捜査対象は現職の地元首長まで及ぶことになった。県警は11月17日、市役所と県庁を一斉に家宅捜索し、その後、斉藤市長はじめ複数の市職員らに順次、任意で事情を聴いたとされる。幹部職員の多くが熱海署に呼ばれる一方で、斉藤市長には聴取場所を別に設け“秘密裏”に行ったといわれている。 任意聴取を受けた1人は「警察は焦点を絞った聞き方を淡々としてきた印象だった。みんな、今唯一できることは、捜査結果を待つのみだろう」と話す。 旧所有者への任意聴取は今年になってからで、2月から6月までの間に10回前後に上っているとされる。現所有者の聴取なども並行して続いているとみられる。 ある県警幹部は捜査の進展に自信をにじませながら「遺族の思いに応えるためにも、あらゆる法令の適用も想定して捜査を継続している」と強調した。
静岡新聞社