「想像以上に…」苦しんだ初出場組。サッカー日本代表が浴びた「アジアの洗礼」とは何か【アジアカップ2023現地取材コラム】
サッカー日本代表は14日、AFCアジアカップカタール2023・グループリーグD第1節でベトナム代表と対戦した。日本代表は4-2で勝利したものの、一時逆転を許すなど、勝利の道のりは険しかった。とりわけ、アジアカップ初出場となる鈴木彩艶や細谷真大はアジア特有の“洗礼”に苦しむ格好となっている。(取材・文:元川悦子【カタール】) 【動画】サッカー日本代表、ベトナム代表戦のスーパーゴールがこれだ!
●またしても浴びた「アジアの洗礼」 中村俊輔がテクニカルな決勝弾で窮地から救った2004年中国大会・オマーン代表戦、吉田麻也のアディショナルタイム弾でギリギリのドロー発進に持ち込んだ2011年カタール大会・ヨルダン代表戦、早い時間帯に先制を許しながら大迫勇也が絶対的エースの貫禄を示した2019年UAE大会のトルクメニスタン代表戦…。日本代表は過去のアジアカップ初戦で何度も「アジアの洗礼」を浴び続けてきた。 しかしながら、今回の森保ジャパンは2023年6月のエルサルバドル代表戦から9連勝中。9日に非公開で行われたヨルダン戦も6-1で勝利し、本番に弾みをつけている。14日の初戦が2002年日韓ワールドカップ(W杯)の日本代表監督だったフィリップ・トルシエ率いるベトナム代表も実力差は歴然としており、誰もが勝利を信じて疑わなかった。 ところが、ふたを開けてみると、日本は5-4-1で挑んできた相手の規律ある守備に苦しみ、序盤から攻めの形を思うように作れなかった。逆にベトナムにパスをつながれ、主導権を握られるシーンも散見され、後手を踏んでいる感が否めなかった。 ●「間違いではないが…」鈴木彩艶が振り返る失点シーン それでも11分、伊東純也の左CKから菅原由勢が強引にシュートを打ちに行き、絶好調の南野拓実がこぼれ球に反応。日本代表は幸先のいい先制点を挙げることに成功する。 これで試合が落ち着くかと思われたが、わずか5分後に相手左CKからニアに飛び込まれて失点してしまう。1-1に追いつかれると、さらに33分には2点目を献上してしまう。起点となったのは菅原が与えたFK。これに対し、遠藤航がファーから飛び込んできた相手2人と競り合う形になり、ヘディングシュートを放たれた。これをGK鈴木彩艶がいったんは右手で防いだものの、こぼれたボールを押し込まれ、非常に嫌なムードが漂ったのだ。 「キャッチの判断も間違いではないと思いますけど、ボールがバウンドもしていましたし、『相手も来るな』って予想があったので、自分としては確実に弾きに行こうと思ったんですけど、少し手の出し方でミスがあったのかな」とA代表初のビッグトーナメント初戦でスタメンに抜擢された鈴木彩艶は悔しさをにじませた。 まさかの2失点でビハインドを背負った日本代表。この時間帯はとにかく流れが悪く、リズムをつかみきれなかった。鈴木同様、アジアカップ初出場の細谷真大も悔しさをにじませる。 ●「想像以上に…」細谷真大が苦しんだのは… 「もうちょっと前から行ってボールを取れるかなと思ったけど、想像以上につなぐのがうまかった。もともとベトナムのビルドアップがうまいのも知っていましたけど、その上を行っていた。ファーストディフェンダーというところでは自分の実力不足もありますけど、動き出しのメリハリや足元か背後かというところをもっとハッキリした方がよかったと思います」 確かに彼が最前線でプレスのスイッチ役になりきれていなかったことも日本代表がボールを奪えなかった一因だと言わざるを得ない。経験不足のパリ五輪世代コンビは今回、苦い思いを味わったに違いない。 難しさを痛感したのは若い2人だけではない。前回大会を直前で棒に振った守田英正でさえも「僕たちに対して準備してきたいいチームだなと思いましたし、ホントに油断とかではなく、対等に戦った内容の中で厳しい展開になったことを受け入れなければいけない」と苦渋の表情を浮かべていた。 日本代表対策を徹底してくるこの大会で圧倒的に勝つのはやはり難易度が非常に高い。森保一監督も「初戦の難しさを学んだ試合になった」と神妙な面持ちでコメントしていた。 幸いだったのは、そこからの日本代表が強引な巻き返しに打って出たこと。急先鋒となったのは、先制弾を決めた南野だった。 ●南野拓実、経験者は語る 「これは『うまく崩して』とかじゃなく、個の質とかラッキーな部分で前半のうちに2-2にしとかなアカンなと思った」と危機感を強めた背番号8は、最前線の細谷をフォローしつつ凄まじいハードワークでプレスに行き、ボールを奪うとチャンスメーク、局面打開、フィニッシュと縦横無尽に動き回った。まさに異彩を放った彼が前半終了間際に遠藤の縦パスを受け、首尾よくゴールを挙げた瞬間、森保監督も他のメンバーもこれ以上ない安堵感を覚えたに違いない。 さらに南野はこの4分後、中村敬斗の逆転ゴールもお膳立てしてみせる。遠藤からパスを受け、中央突破からの鋭いラストパスを供給。3-2の逆転劇を見事に演出した。 「今回の合宿に入ってから、シュートに関してはすごくいい感触が自分の中にあった。初戦でチームに貢献することができてよかった」と本人もホッとした様子だった。凄まじい重圧で押しつぶされそうになった前回大会の経験がある分、彼は努めて冷静になろうとしたのだろう。それが奏功し、明らかに別格のパフォーマンスが大いに光った。 「今日のような難しい試合になると、技術があってハードワークができないと勝っていくのは難しい。彼はアジア、世界で勝つために必要なプレーを見せてくれた」と森保監督は改めて南野を絶賛していた。アジアカップで勝つには、そのレベルのプレーをコンスタントに出せないと難しいのだ。その厳しい現実を多くの日本代表の選手たちが再認識したと言っていいだろう。 ●アジアで勝つには… 結局、後半はベトナム代表がトーンダウンしたこともあって日本代表ペースになり、最終的には上田綺世がダメ押しとなる4点目をゲット。日本は4-2で白星スタートを切ることができた。森保監督は「前回(2019年)も初戦で2失点しましたからね」と苦笑したが、どういう形でも勝ってスタートできたことはやはり大きかった。 今後も日本代表対策をされる中のゲームが続くと目されるだけに、鈴木彩艶や細谷を含めて経験値の少ない面々は、南野のような強度、スピード、献身性、ハードワークを意識的に強く押し出していく必要がある。それができて初めて、アジアカップで活躍できる。高い基準を日本代表全体が再確認できたのがベトナム戦における最大の収穫ではないだろうか。 「こういう短期決戦はすぐに次の試合がやってくる。だからこそ、あまり考えすぎず、本当に自信を持って、次の試合や練習にもっと自分の力をぶつけていってほしいなと。僕はまだまだ何かを言える立場じゃないけど、若い選手たちがチームの力になるっていうのはみんなが信じてることなんで」 南野が強調したように、今回苦しんだ面々にとってはここからが本当の戦い。ベトナム戦の反省を生かし、ギアを上げていけるか否か。それが問われる。 (取材・文:元川悦子【カタール】)
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