「カスハラは老害」のウソ、被害が「増える」本当の理由…3つの火種と広がる着火点
■ カスハラが「増えた」本当の理由 まず第1のわかりやすい要因は、SNSやスマートフォンといった情報通信機器・ツールの発達である。加害者側が店員や職員を動画などで「晒す」といった暴露的な脅迫や、その場での本社への通報、長時間にわたる電話での悪質クレーム、また口コミサイトへの書き込みの容易さなどは、苦情行動全体のコミュニケーション・コストを下げている。そうした情報環境の変化によって、カスハラそのものが変化したり、起きやすくなったりしてきたのは疑いない。 2つ目に、サービス事業者サイドは認めにくいだろうが、昨今のサービス業全体の人手不足によるサービス品質の低下だ。現在のようにどこの現場でも人手が足りなければサービス提供に時間がかかったり、接客の丁寧さは失われたりするのは当然だ。また、シフトに入れる人数の問題だけではなく、サービスの質の高い優秀な人材を集めることも難しくなる。 そうした「質と量」の両側面から、顧客との間でコミュニケーションの齟齬や小さなトラブルが現場で起きやすくなってきているのは間違いないだろう。 3つ目として、社会全体の孤独・孤立化の傾向があげられる。「ローン・ウルフ型」(一匹狼型)犯罪と呼ばれるが、周りの支援や監視の目がない孤立状態にある人のほうが、犯罪や苦情行動を行う傾向が強いことはこれまでも指摘されてきた。 日本は世界から「孤独大国」と呼ばれるほど孤立化が進んだ国であるが、近年はさらに、未婚率の高まり、コロナ禍による疎遠化、他者とのコミュニケーションを必要としない各種ネットサービスの発達により、他者との活発な交流のある個人が減ってきていることが考えられる。
■ 増えたカスハラの「着火点」 今あげたような要素をカスハラの「火種」とするならば、そもそもの「着火点」が増えたことも挙げられる。 周知のとおり、日本全体のサービス産業化は伸長している。ドラッグストアもスーパーもコンビニも、人口減少を前にしても大量に出店され続けた。それはつまり、カスハラの「現場」が増えたことを意味する。 そして、そこに高齢者の社会活動の活発化が重なる。医療の発達と健康寿命が延びることによって、アクティブな高齢者は年々増えてきた。そうした中で負の現象も当然出てくることになる。例えば、高齢者犯罪だ。 高齢者の刑法犯検挙人員は、平成10年代に大幅に増えたが、中でも増えてきたとされるのが、暴行やその他の「対人」犯罪である。平成22年の『犯罪白書』*1 によれば、1990年からの約20年間で、高齢者犯罪は暴行がなんと約52.6倍、傷害で約9.5倍、窃盗で約6.8倍と急激に増加したことが指摘されている。 *1:法務省「平成22年版犯罪白書」 近年では高齢者の検挙人員は微減傾向にあるが、若年はさらに大きく減っているため、高齢者の割合は急上昇している。令和5年の法務省『犯罪白書』*2 は、刑法犯の検挙人員に占める65歳以上の高齢者比率は、平成5年には3.1%であったが、令和4年は23.1%となったことを指摘している。これらが「老害」問題への注目につながっているだろう。 *2:法務省「令和5年版犯罪白書」 高齢者の健康寿命は周知のように延び、社会活動が活発化していく中でサービス職と接触する機会が増えていれば、高齢者によるカスハラ発生の蓋然性が上がって当然である。先ほどのような「火種」と、「着火点」が掛け算されていると考えれば、カスハラ現象への眼差しも対策も変わってくる。