米象徴する鉄鋼会社 USスチール “買収反対”の背景【WBS】
120年以上の歴史を持ち「アメリカを象徴する鉄鋼会社」と言われている「USスチール」。日本製鉄が目指すUSスチールの買収についてバイデン大統領は先週、反対を表明しました。日鉄側は買収を完了させる強い意志を示していますが、USスチールの本拠地を訪ねると、厳しい状況が浮かび上がりました。 「USスチールは、アメリカ資本であることが不可欠だ」。先週、このような声明で、日本製鉄の買収に反対を表明したバイデン大統領。USスチールの本拠地である東部ペンシルベニア州では、一体何が起きているのでしょうか。 「USスチールの工場の前に来ています。建屋には大きな星条旗が描かれ、メイドインアメリカを強調しています」(ニューヨーク支局の森礎人記者) アメリカの鉄鋼業を代表するUSスチール。今から123年前、「鉄鋼王」として知られた実業家アンドリュー・カーネギーなどが関わり、設立しました。その後、USスチールの本社があるペンシルベニア州ピッツバーグ市は一大生産地として栄え、アイアンシティ(鉄の町)と呼ばれるようになったのです。 しかし今、製鉄所の付近を訪ねると、「中学校」と書かれた建物には生徒の姿はなく、廃墟となっていました。また、商店街に車を進めると、店舗の多くが閉鎖されていました。地元住民は「工場の多くが閉鎖してしまった。今は空き地やビルの廃墟、がれきの山が残っているが、昔は全て工場だった」と話します。 かつては、生産量で世界一を誇ったUSスチールですが、その後は日本など外国勢との競争に敗れ、粗鋼生産量は2022年世界27位まで転落。事業の縮小や整理解雇が進み、地域は産業が衰退したラストベルト(さびた地帯)の一部となったのです。日鉄による買収について、地元の人に尋ねると「祖父もおじも製鉄所で働いていた。雇用を守り、設備に投資してほしい」「買収するなら地域の雇用を維持すると約束してほしい」と話します。 住民たちが重視する雇用。日鉄はUSスチールの買収後レイオフ(一時解雇)を行わないとしていますが、USスチールの従業員を代表するUSW(全米鉄鋼労働組合)は「今回の買収は失望と言っても過言ではない」と猛烈に反対しました。