春高バレー、交通事故で犠牲の親友と共に… 福井工大福井・主将、応援席に野球部ユニホーム掲げ気迫のプレー
バレーボール全日本高校選手権(春高バレー)で男子福井工大福井の応援席に、同校野球部のユニホームが一着、選手たちを励ますように掲げられた。昨年11月、交通事故で亡くなった那須一斗(いっとう)さん(享年17)のものだ。「俺の戦いぶりをきっと見ていてくれている」。親友であり、良きライバルだったエースの山本快主将。準々決勝で敗れ「日本一」の目標には届かなかったが、最後まで気迫のプレーを見せた。 応援席に掲げられた那須さんのユニホーム 那須さんと山本主将は入学したときから同じクラスだった。部は違えど、ともに負けず嫌い。それぞれ「甲子園に行く」「日本一になる」と高い志を抱いていた。 実力を認め合い、刺激し合いながら心技体を高めた。那須さんは長打力を買われ、2年の秋には打線の中軸に座った。山本主将も昨年の春高バレーでエース級の活躍をみせ、高校日本代表に選ばれた。那須さんは周囲に山本主将のことを「親友にジャパンの選手がいるんだ」と誇らしげに語っていたという。 ところが―。昨年11月9日だった。福井市内の交差点で、那須さんが乗っていた車が道路わきの電柱に衝突。搬送された病院で帰らぬ人となった。 遠征先の愛知県で事故を知った山本主将。福井に戻り、那須さんがいない現実に大きな悲しみが押し寄せた。肩を落とし沈みきった息子に、母由紀子さん(51)=大野市=は「よく泣いておいで」と葬儀に送り出すのが精いっぱいだった。 葬儀の翌日が、春高バレー福井県代表決定戦の日だった。山本主将は、はちまきに那須さんの名を記して臨み、代表切符を勝ち取った。そして12月、那須さんの家族に頼んでユニホームを借りた。「いつもあいつは自分を応援してくれていた。優勝して恩を返したい」。そう決意して今大会に乗り込んだ。 7日の3回戦第1セット、17―21で劣勢の場面。山本主将は、応援スタンドに横断幕と一緒に掲げられた那須さんのユニホームに目をやり、気持ちを奮い立たせた。セッターの代継(よつぎ)羽陽(はるひ)選手に「俺にパスを集めて」と要求。その後立て続けにスパイクを決め、逆転でこのセットを奪った。 いつも冷静にチームを見つめ、家族にも多くを語らない絶対的エース。準々決勝で敗退後、その頰に大粒の涙が何度も伝った。「絶対あいつの分まで頑張ると決めていたのに…」と言葉を詰まらせた。
福井新聞社