【文蹴両道】神奈川県内屈指の進学校・川和がベスト16強入り 岡野亘監督「ピッチの内と外はつながっている」
横浜市都筑区にある県立川和高校は創立62年。神奈川県内屈指の進学校であり、文武両道としても知られている。マネージャー6人あわせ、部員65人が在籍する川和高校サッカー部を率いるのが岡野亘監督(30歳)。これまで神奈川県内を中心に指導をした岡野監督は就任2年目。第103回全国高校サッカー選手権神奈川予選の2次予選では格上の慶應義塾を撃破し、見事に県内16強入りを果たした。 【フォトギャラリー】川和高校 自主性を重んじる岡野監督、その指導法には高校時代に味わった経験が。またいまの生徒に求めることとは。 ―――川和高校は文武両道のイメージが強いですね。 川和高校の校庭は県内でも広く、サッカー部は白土(しろつち)の部分。その外側を陸上部。黒土(くろつち)の部分を野球部がそれぞれ使って練習しています。 ラグビー、野球、陸上、サッカーとそれぞれの先生たちで「グラウンド部活で頑張っていこう」「学校を盛り上げていこう」と話しています。 校庭が広い分、休日は午前と午後でどちらかの部が使えますし、練習試合をしたいとなれば、陸上部、野球部、ラグビー部の先生に伝えて、使わせていただけます。なので、グラウンドに関するストレスはほかの公立高校に比べて感じません。サッカー部が遠征などで外に出るときはほかの部活が使ってもらっています。 ―――練習時間はどのくらいですか? 1時間半と決めています。高校のとき、ずっと長い時間練習だった経験があったので、(練習時間が長いことは)まったく意味がないなと感じていました。また生徒たちは賢いので短い時間で濃密にしたほうが頭をフル回転してできるのと、サッカーに対して、「もっとやりたい」と飢えさせたい、狙いがあります。 わたしは3年間、大船高校でコーチを務めましたが、当時は指導者として経験が浅かったので、3、4時間練習をさせていました。しかし選手を疲弊させてしまいました。 1時間半にしたいま、選手たちは自主練習をしています。自然と朝7時半から8時半までの1時間の朝練、昼休みの30分間で行う昼練をしています。 あと雨の日は風邪をひきやすくなりますし、選手にストレスがかかって、嫌々、トレーニングをしてもしょうがないので、雨の日にはグラウンドではやらず、室内で筋トレや階段トレーニングだけにします。週1回、来ていただくトレーナーさんに雨の日メニューを考えてもらうこともあります。 ―――1週間はどんなスケジュールですか? 土曜に試合がある場合、月曜日はオフ。火曜日は少しコンディションをあげるので、ゲーム中心。5対5、8対8などありますが、フルコートであれば11対11のゲームをします。水曜日と木曜日は試合にむけ細かい部分をトレーニングして、金曜日はセットプレー。そして試合ですね。 一貫して練習で取り入れるのはシュート練習。点が取れないと勝てないので、火・水・木と必ずメニューにいれています。 ―――選手には、どのようなアプローチから指導をなさっていますか? サッカーを教えるというより…まだまだ高校生なので、人としてのところを指導しています。たとえば挨拶にはじまって、学校生活、私生活と。正直、そこしか教えていません。経験上、オン・ザ・ピッチとオフ・ザ・ピッチは絶対につながっていると信じています。たとえば普段から適当な行動をする選手はラストパスも適当ですし、その人の普段が出ます。 僕はプロ野球の野村克也さんの「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」。この言葉が好きで、やはり負けにはなにかしらの理由があります。 勝ちと負けの間にはグレーゾーンがあります。このグレーゾーンは私生活や学校生活、練習態度であり、すべての試合までの工程ですが、グレーゾーンを極力、減らして、サッカーで勝つかサッカーで負けるかにしていこうと選手に伝えました。「学校生活がテキトーだったから、ここで負けたんだ」と思ってほしくないですし、そうした後悔を残させたくないです。 ―――私生活とピッチはつながっている、そう思われたキッカケはありますか? 高校時代での経験ですね。神奈川県立旭高校サッカー部にいました。当時、旭高校は関東大会、インターハイともに2次予選に出場していましたが、高校選手権の1次予選ブロック決勝、相手は山手学院でした。この試合は旭が押して、シュート数は25本。いまだに覚えていますが、ポストやバーに当たったのは7回。しかし、山手学院はシュートゼロ。結果は0-0のまま、PK戦で負けました。 実はPKを外してしまった2人はすごくサッカーがうまい選手でした。しかし生活態度が良いとは言えませんでした。当時、チーム内には上手、下手である種のヒエラルキーがありました。僕は試合に出ていたので、彼らにいろいろ言っていましたが、周囲はなかなか意見が言えませんでした。とてもうまい選手たちでしたが、大事な場面でPKを外すんだと。ピッチと普段の生活がつながっている、そう確信した原点かもしれません。 ―――つまり「試合で決めればいいんだろ」と。そういった選手だったんですね。 負けたときに気が付くもので、試合後、この2人はとても後悔していました。こうした思いをいまの生徒たちにさせたくないですし、指導者としてもそう思いたくありません。実力がすごいあるのに、負けてしまうチームは「なぜ負けたんだろう」とその理由をいまひとつ理解できないと思います。集団行動しているのに誰かが遅刻した。そこが理由だよねと。そのグレーゾーンをなくせば、負けた理由が明確になります。 ―――挨拶など、ピッチ外の指導によって何か良い影響はありましたか? 川和高校の先生方がサッカー部を応援してくれるようになりました。応援されないチームは勝てません。さきほどの試合(取材時前)には5人くらい先生方が応援に駆けつけてくれました。絶対に部活動は応援されるチームであるべきです。 保護者の方は一番のサポーターですから、応援してくれるでしょう。次にと考えたとき、身近で面倒を見てくださる先生方。そうしたところから学校が応援してくれるマインド的に自然と川和高校のサッカー部だという自覚、責任、誇りが芽生えてきます。 #2に続く (文・写真=佐藤亮太)