『虎に翼』寅子に寄り添う仲間たちの言葉 よね「決めるのは彼女だ」の“説得力”
『虎に翼』(NHK総合)第113話では、竹中(高橋努)の記事が人々の心を打ち、「原爆裁判」に世間の注目が集まりはじめる。しかし寅子(伊藤沙莉)はこの裁判の難しさに頭を抱える。 【写真】「こちら側へようこそ!」と寄り添う梅子(平岩紙) 「法的に、原告の方々の損害賠償請求権を認めることは難しい。でも、本当にそれでいいのか? 自分に何ができるのか? 考えても考えても分からなくて」 第113話では、寅子の険しい顔が印象に残る。そんな寅子の支えとなるのが、寅子と関係の深いさまざまな登場人物だ。本作は、あらゆる課題に直面する寅子が、自身の力はもちろんのこと、周囲に支えられて一歩ずつ前へ進んでいくさまを丁寧に描き続けている。 たとえば航一(岡田将生)は、「原爆裁判」で頭がいっぱいになり、切羽詰まった表情の寅子に寄り添う。航一が「胸の内にためているもの、裁判官ではなく、夫の僕に少し分けてくれないかな」と声をかけたからこそ、寅子の口から先述した言葉があらわになったといえる。寅子が思い悩み、落ち込んでいる時、航一はいつもと変わらぬ佇まいで、何も言わず、同じ場所にいる。そのことは寅子にとってとても大きな支えとなっている。 法曹界の先輩である桂場(松山ケンイチ)の存在も大きい。甘味処・竹もとで、桂場は寅子に、「原爆裁判」を速やかに終わらせたがっている存在について伝える。団子を頬張りながら、まるでひとりごちたように伝えるあたりが桂場らしい。加えて、「自分の無力さ」を考えてしまうという寅子への言葉もまた、“司法の独立を重んじる”桂場らしいものだった。 「司法に何ができるのか、そのことだけ考えろ」 寅子を突き放しているのではなく、法曹の世界に立つ、その意味を思い出させるような言葉は、寅子の胸に響いたことだろう。
“更年期の悩み”に優しく寄り添う梅子(平岩紙)の言葉
シリアスな空気が漂う第113話で、明るい表情で寅子に寄り添ったのは梅子(平岩紙)だ。第23週は「原爆裁判」、百合(余貴美子)の認知症、寅子の更年期による不調と、そう簡単には割り切れない話題ばかり。そんな中、梅子は寅子が更年期を迎えたと知ると、「あらあら~! トラちゃん、こちら側へようこそ!」と明るく笑った。寅子と梅子が楽しげに更年期特有のほてりに共感し合う場面はコミカルで微笑ましい。 本作では、15分という短い放送時間の間に胸に刺さる台詞が幾度となく登場する。寅子にかけられた言葉ではないが、よね(土居志央梨)の言葉も忘れられない。「原爆裁判」の原告のひとりが法廷に立つことを承諾した。しかし轟(戸塚純貴)は彼女が好奇の目にさらされ、苦しめられることへの不安を抱く。そんな轟の言葉をよねはこう遮った。 「それを決めるのはお前じゃない。どの地獄で、何と戦いたいのか、決めるのは彼女だ」 よねもまた“地獄”を見、“地獄”で戦ってきた人物だ。だからこそ、法廷に立つと決めた原告の意志を尊重し、この言葉を発することができる。短い場面ではあるが、よねの言葉には強い説得力があり、心打たれた。 物語の終わりに描かれた星家の課題、「原爆裁判」の行く末。気になることは多々あるが、寅子の周りにいる人々の存在や心揺さぶる台詞に、今後も注目していきたい。
片山香帆