刺身マグロの4割が清水港で水揚げ? 漁船と冷凍運搬船で異なる統計
東京・築地市場の初競りで青森・大間産の本マグロが高値落札されたニュースが、新春の話題としてテレビなどで大きく取り上げられた。落札されたマグロは極上の刺身になって寿司店で振る舞われるわけだが、実は国内で流通している刺身マグロの多くは静岡・清水港で水揚げされているという。
清水港で水揚げされるマグロはほとんど冷凍運搬船のもの
物流の港、清水港で多くのマグロが水揚げされているのは本当なのだろうか? 静岡県には漁港としては国内トップクラスの焼津港がある。全国主要漁港水揚高によると、焼津港の昨年の水揚量は約15万5000トン。2015(平成27)年の約16万9000トンからやや減ったものの銚子港(約27万5000トン)に次ぐ全国2位の規模を誇っている。焼津市によれば、2015年の1年間の水揚げは、カツオが約10万トンともっとも多く、次いで多いのがマグロ。本マグロ、南マグロのほかメバチ、ビンナガを加えたマグロ類の水揚高は約5万3000トンにのぼった。 一方、清水港はどうなのか?「清水港で水揚げされるマグロは冷凍運搬船によるものがほとんど。港に市場はなく業者が船ごと買い付ける一船買いが行われていて水産庁などの統計には反映されない」と一般社団法人「清水漁港振興会」の大石日出男常務理事は明かす。清水漁港振興会は、清水港に関わるマグロ関連業者で作っている団体で現在100社を越す企業が加盟しているという。 マグロとひと口に言っても、大間のマグロのように日本近海でとれた生マグロと遠洋漁業でとった冷凍マグロに大別され、焼津も清水も水揚げされるのは遠洋漁業による冷凍マグロだ。しかし、冷凍マグロにも、漁船から水揚げされるものと、冷凍運搬船が遠洋で操業中の漁船から運んでくるものとがある。 冷凍運搬船によって運ばれてきた冷凍マグロは業者が船会社などから直接買い付ける取引となるため、その実態が見えにくい側面があるようだ。
清水港の地元では「冷凍マグロ水揚げ日本一」をうたう
清水漁港振興会の独自データによると、清水港に漁船から水揚げされる冷凍マグロは2015年のデータでは約2万トンのみ。一方、冷凍運搬船によって水揚げされた冷凍マグロは9.4万トンにものぼり、同年1年間に清水港に水揚げされた冷凍マグロは合わせて11.33万トンに達しているという。 振興会によると清水港に水揚げされる冷凍マグロは、鮪はえ縄漁によるもので刺身マグロとして流通するという。2015年の刺身マグロの総供給量は約30.3万トン(まぐろ需給協議会予測)だったことから、振興会では、同年に供給された刺身マグロの37.4%は清水港で水揚げ・搬入されたとし、さらに14年にいたっては刺身マグロ総供給量の44.9%が清水港で水揚げされたとしている。 清水港の地元では「冷凍マグロ水揚げ日本一」を掲げて毎秋、清水港マグロまつりを開催している。また、清水港を抱える静岡市も「まぐろのまち静岡」をキャッチフレーズにPRを行っており、業界と行政、市民一体での盛り上げを図っている。 一方、焼津港関係者からは「清水港のマグロには焼津港で入札して清水に揚げた焼津のマグロも多く含まれているのだが……」との声も。「冷凍マグロ日本一」のキャッチフレーズにはマグロに対する熱い思いが伺えるが、そこにはマグロをめぐる漁業と流通のせめぎあいの構図も垣間見えている。