奪還なるか?永瀬拓矢九段が藤井聡太王座に挑む王座戦五番勝負の展望はいかに
藤井聡太王座に永瀬拓矢九段が挑戦する第72期王座戦五番勝負。昨年藤井が八冠制覇を成し遂げてから1年、防衛と挑戦の立場を入れ替えての再戦となった。 【写真を見る】王座戦防衛に臨む藤井聡太 将棋界の第一人者の藤井だが、今年度に入って不調説がささやかれる。七冠を持ってそう言われるのは違和感もあるが、叡王戦では珍しい終盤の逆転負けで初の失冠。名人戦や王位戦では結果こそ白星が多いものの、内容では苦戦が目立つ印象がある。今期はデビュー以来続いていた勝率8割も黄信号だが、まだ若い藤井は進化の過程でもあるだろう。 一方の永瀬は2022年の第93期棋聖戦以来、久しぶりのタイトル挑戦。毎年安定した結果を残しているが、昨年は棋聖戦、竜王戦、叡王戦の挑戦者決定戦で敗れるなど、このところは惜しくも届いていなかった。今回も敗れると挑戦者決定戦で5連敗となるところだったが、ようやく悪い流れを止めて大舞台へ帰ってきた。 昨年の王座戦は藤井の八冠が掛かる、社会的にも注目のシリーズだった。結果こそ3勝1敗での奪取となったが、藤井が勝った将棋はいずれも逆転勝ちで、内容的には逆のスコアでもおかしくなかった。特に最終第4局は勝勢となった永瀬が終盤でまさかの大悪手。頭を抱える映像が印象に残っているファンも多いはずだ。永瀬には名誉王座が掛かる防衛戦だったが、獲得条件は連続5期または通算10期のため、この敗戦で永世称号は事実上、一からやり直しとなった。 過去の対戦成績は藤井から見て15勝7敗。タイトル戦での顔合わせは2022年の棋聖戦と、昨年の王座戦で今回が3回目となる。 藤井は基本的に先手なら角換わりがメインでまれに相掛かり、後手では2手目△8四歩でどんな戦型でも受けて立つタイプだ。一方の永瀬は作戦の幅が非常に広い。基本的には居飛車だが後手では2手目△8四歩以外に横歩取りや雁木に誘導することもある。また、元々は振り飛車党で、藤井相手に四間飛車を採用して勝ったこともある。このシリーズでもとっておきの研究をいくつも用意するはずで、どんな戦型になるか予想は難しい。ただ内容としては、永瀬は豊富な研究量を生かして局面、時間で先攻逃げ切り、一方の藤井は中盤以降に力と読みでねじ伏せにいくだろう。 五番勝負は9月4日に開幕する。昨年は藤井には八冠、永瀬には名誉王座の掛かった大きなシリーズだった。第4局のドラマもそういったプレッシャーが背景にあっただろう。今回の藤井は全冠が崩れ、永瀬は挑戦者と、互いに伸び伸びと指せる状況だ。より将棋に集中しやすい状況で、昨年以上の好勝負となることが期待される。 文=渡部壮大
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