「被災者でない自分たちが語っていいのか…」葛藤越え、震災伝承に踏み出した若者たち 津波で84人犠牲の大川小で始まった「語り継ぎ」
上園さんは校庭で「いつ来るか分からない、えたいの知れない津波の恐怖におびえていました」と児童の気持ちを代弁した。 2年の後藤太朗さん(20)は仙台市出身。児童らが津波に襲われたとされる場所に立ち「仲の良い子たちが手をつなぎ、姉が妹を両手で抱えるようにする様子もあった」と静かに語った。来訪者の中には涙を浮かべて話に聞き入る人もいた。 一行は当時、児童が逃げようと教職員に訴えたとされる裏山にも登った。津波の到達点を示す看板より高い位置に、ひらけた場所がある。もしここに逃げていれば―。後藤さんは「救えた命が救えなかった命になった。極限状態で命を守るには、事前の準備が必要です」と力を込めた。 ▽壁を越える力 横浜市から初めて訪れた学校職員の松沢直明さん(60)は「児童がなぜ犠牲になったのかがよく分かった。若い世代が伝えることで、同世代も聞く耳を持ってくれるのでは」と話した。 案内役を終えた後藤さんは「聞いた人の行動が少しでも変わるきかっけになったらうれしい」とほっとした様子。近くで見守った伝承の会の佐藤さんは「『(遺族など)当事者しか語れない』という壁を軽々と越えてくれた」と目を細めた。
学生たちはその後も定期的に語り部を務め、来年度以降は後輩にも活動を引き継いでいく予定だ。 佐藤さんは「震災伝承は遺族や被災者だけのものではない」と言い切る。「知らないということは、たくさんのことを学べるということ。そんな世代と一緒に新たな道を切り開きたい」