「被災者でない自分たちが語っていいのか…」葛藤越え、震災伝承に踏み出した若者たち 津波で84人犠牲の大川小で始まった「語り継ぎ」
簡単には想像できない情景や感情を、自らの言葉でどう伝えるか。学生は時に、遺族へ率直な疑問もぶつけた。例えば、遺族がわが子の遺体を捜し出した当時の状況を話す場面だ。「なんでおめたちがここさいんだ!」。そう叫びながら泥をかき分けたという鈴木さんの沈痛な表情を見て、東北大2年の坂井宏羽さん(20)は「それをどう伝えたらよいのか。悩んでいる」と相談した。 佐藤さんは学生たちに「感情の伝え方は人それぞれ。聞く人の年齢や立場によっても話し方は変わる。『子どもたちのその時の気持ちを考えてください』と言うだけでも良いと思うんだよ」と応じた。学生と遺族は共に悩み、試行錯誤を続けた。 ▽担い手確保は課題 被災地の伝承活動は岐路に立っている。公益社団法人「3・11メモリアルネットワーク」(石巻市)の調査によると、岩手、宮城、福島3県の震災学習プログラムを実施する24団体のうち23団体と、伝承施設を運営する21組織中15組織が、活動を継続していくことに不安を抱えていると訴えた。語り部の高齢化や、後継者の育成ができていないことが主な理由で、担い手確保と次世代への継承は共通の課題だ。
スクラムの活動をサポートする東北大の松原久特任助教は、大川小とは別の語り部と学生の交流を図る授業も開講しており、そのうち1件が「語り継ぎ」につながった経験を持つ。震災で両親を亡くした女性の経験談を、学生が地元の静岡県の高校生らに伝えた。 松原さんは「学生にとっては、一人の当事者の経験を通じて震災を理解し、自分ごとにすることができる。他県から入学した学生が卒業し、地元や東京で就職した後も語り継ぎを続けることで教訓を各地に広げられる」と意義を強調する。 一方で、活動を進める上では「語り部と学生の間に立ち、コミュニケーションを仲立ちする役割が重要。話すことでつらい気持ちになる学生もいるので、メンタルケアも必要だ」と指摘する。 ▽初めて案内役に 9月10日、スクラムの学生たちは初めて来訪者への案内役を務めた。埼玉県川口市出身で東北大2年の佐々木航征さん(20)は時折、メモが書き込まれた原稿に目を落としながら「この場所に来た1人でも多くの方々に、大川小のできごとを伝え、全国、未来の世代に学びを語り継ぎたい」と切り出した。震災当時の写真を示したり、児童らが避難を試みた経路を一緒にたどったりして丁寧に説明した。