農産物輸出大国タイで見た日本のコメ輸出の現実 日本産は高くても売れるのか?「日本食ブーム」に乗るために必要なこと
創意工夫が進められるジャポニカ米の産地
タイ北部の主要都市であるチェンライ県では、日本米の栽培が盛んと言われている。筆者が10年ほど前に訪問した際、チェンライとチェンマイの中間に位置するカンキツ園の隣の圃場でも日本産米が栽培されていた。 2017年時点で、タイ北部の各県において、品種は「ササニシキ」と「あきたこまち」が約1万2800ヘクタール(ha)で生産されているとされていたが、近年ベトナムから低価格のジャポニカ米が輸入されるようになり、ジャポニカ米の生産を中止する農家が相次いでいるようである(農水省報告書)。 タイ・チェンライ県の稲作農家2人に会うことができた。一人は、30歳台と農業を始めて10年ほどの若手だが、国内有数のチェンマイ大学を卒業した高学歴の持ち主である。もう一人は広い面積での日本米の栽培を進めているという。二人とも地元市場向けの生産だ。 タイ・チェンライ県での稲作経営はタイ農業協同省元職員への聞き取り調査によると、以下の通りである。日本のコメ農家の平均作付面積は1haと言われている(「2015 年 世界農林業センサス」)が、タイ・チェンライ県は2期作なので、作付面積は北海道以外の日本の平均的な農家よりやや大きいようである。 ・経営規模:3~20ライ(48アール(a)~3.2ha) ・米の品種:Kwo. Wo. Kwo .no. 1とKwo. Wo. Kwo .no .2(ササニシキやあきたこまちやから選抜したもの) ・栽培期間:7月~10月と1月~4月の年2回栽培 日本農業サポート研究所の試算によると、タイ産日本米は日本で栽培されている米に比べ、10a当たり収入は6分の1程度であるにもかかわらず、コストは4分の1と収入に比べ高い。そのため、収支は10分の1と低くなっている。収益性に課題があるため、生産者は工夫を凝らす。
先の二人は、トラクターやドローンなど新しい技術の導入だけでなく、その技術を使って経営の改善する「スマートファーマー」(日本の指導農業士と近い意味)で、GAP認証も取得。先の二人のうち、若い生産者はトラクターとドローンを自ら所有し、病原菌や害虫を天敵となる微生物や昆虫を活用して生物学的防除(茨城県ホームページ)に挑戦している。近年では、日本政府も自動操舵トラクター、衛星画像やドローンなどを使ったサービスなど日本企業のタイへの技術移転に力を入れる。 これに加え、タイ政府はタイ・チェンライ県での日本米栽培推進を研究などを通して支援している。タイでは、日本産米の栽培が根付いており、国としても推進している。「のりたけ米」の普及も必然であり、今後も進んでいくことが予想される。