なぜヒトの睡眠は2種類あるのか 実は全くの別モノ、睡眠専門医が詳しく解説
素朴な疑問とは言え、難問中の難問
私の大学では医学部の4年生に精神科の授業で睡眠について詳しく教えている。睡眠に関心のある学生から素朴な疑問をぶつけられることがあり、その代表とも言えるのが「なぜ睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があるのですか?」というものだ。 【動画】本当に眠りながら食べまくる女性たち、謎の病 素朴な疑問とは言え、これは睡眠に関する質問の中でも難問中の難問で、誰も真の正解は知らない。同じ「睡眠」が付いているとは言え、この2つは全く別モノである。多くの睡眠研究者が信じているのは、レム睡眠とノンレム睡眠は長い進化の過程で形作られたもので、この2つの睡眠状態は進化の異なる時期に、異なる目的で出現したということだ。 地球上の全ての生物が共通祖先からその子孫へ枝分かれしながら進化したとする進化系統樹に沿ってさまざまな動物の睡眠状態を観察すると、系統的に古い順に昆虫、魚類、両生類、爬虫類くらいまではレム睡眠もしくはそれに類似した行動しか認められない。 レム睡眠に類似した行動とは、巣穴など安全な場所で一定時間、周期的に動かなくなる現象のことで、レム睡眠中には骨格筋(自分の意志で動かせる筋肉)が弛緩する特徴があり、その原型がこの不動状態だと考えられている。 一見生き残りには不利とも思える不動状態を特徴とするレム睡眠が自然淘汰の過程でなぜ残ったのか? 何らかのメリットがあるはずで、「巣穴でじっとしていればむしろ外敵に遭遇せず安全だから」「筋肉の収縮は大きなエネルギーを消費するため、一定時間レム睡眠状態になることで省エネと飢餓対策になる」など諸説ある。 一方のノンレム睡眠がしっかりと認められるようになるのは系統的により新しい鳥類、哺乳類である。進化が進むにつれてノンレム睡眠の発生源である大脳皮質や間脳(視床、視床下部)と呼ばれる新しい脳が発達するためだ。 特に大脳皮質が発達した霊長類ではノンレム睡眠の中でもより深いノンレム睡眠(徐波睡眠)の占める比率が大きくなる。深いノンレム睡眠中には大脳皮質の活動性の指標である脳波は周波数の遅いδ波(デルタ波)が大部分になる。実際、脳の温度や脳血流は低下し、大脳皮質細胞のエネルギー源である糖の利用率も下がるなど代謝も減少する。 これらのことから、深いノンレム睡眠は「覚醒中にオーバーロードになった大脳皮質細胞のクールダウン」のために進化の過程で出現したなどの説が提唱されるようになった。実際、徹夜など長時間覚醒し