2014年のテレビを振り返る(4)── 取材不足が露見した「明日ママ」問題 水島宏明
実はこの問題には「STAP細胞」や「佐村河内守氏」にもつながる共通点があります。番組に児童養護の問題について専門的な制作者がいなかったことです。専門的な制作者がいなければ専門家のチェックを細かく受けるべきです。実際に番組テロップで「児童養護施設監修」という名前が出ていた児童養護施設の元施設長はいたのですが、「日本子ども虐待防止学会」が後で調べたところ、その監修というのが相当におおざっぱな実態だったことも判明しました。つまり、番組の制作者たちが実際の児童養護施設をほとんど取材していないし、専門家のかかわりも乏しかったのです。 そうした専門家不在のままに「実際にはありえない」ドラマの制作が行われました。もちろん、何でもかんでも実際の施設の実態とまったく同じにしろ、と言っているのではありません。でも、たとえフィクションであるドラマでも実情を十分に取材した上で、そこからフィクションにする、という方法はあったはずです。そうしなかったのはそれこそ丁寧な制作プロセスを怠った、と言われても仕方ありません。事実、「明日ママ」と同じ時間帯にフジテレビでやっていた「僕のいた時間」は難病のALSを扱ったドラマでしたが、日本ALS協会が協力し、ALSの専門医が「医療監修」を担当していました。 しかも番組の担当者は想像もできなかったのかもしれませんが、「明日ママ」を見てリストカットするほど傷つく子どもたちがいる可能性があるのであれば、それを専門家に相談して事前に防止し、そういう事態が起きないように配慮するのはテレビ番組の制作者として大事な倫理だと思います。そういう意味では「加害性」がある番組だという外部の指摘があったのに、「最後まで見てもらえばわかる」と言って当初はまったく改善に動かなかったことで問題が大きくなって、CMがなくなる事態にまで発展したのでした。 テレビの制作者に大事な要素のひとつにテレビを見ている人たちへの「想像力」があると私は考えていますが、それが十分でなかったこの番組はとても残念でした。