2014年のテレビを振り返る(4)── 取材不足が露見した「明日ママ」問題 水島宏明
制作者による取材不足が露見した「明日ママ」
2014年のテレビで特筆される象徴的なシーンは、民放のテレビ番組で提供スポンサーのCMがすべてなくなり、公益社団法人ACジャパン(かつての公共広告機構)のスポット告知と自社番組の告知だけになってしまったことだと思います。 問題のテレビ番組は、日本テレビのドラマ「明日、ママがいない」。1月から3月にかけて放送されましたが、1月下旬に放送された第3話以降、コマーシャルは放送されませんでした。2011年の3月11日の東日本大震災直後の数日間をのぞいて、あれほどACジャパンのスポットを続けてみたのは久しぶりだった視聴者が多いことでしょう。 それほど、民放のテレビ局にとっては「大事件」でした。この問題では「Yahoo!ニュース 個人」などに数多くの記事を書いたので、くわしくはそちらを読んでいただければと思います。 ただ、児童養護施設や里親、特別養子縁組という、事情があって子どもを育てることができない子どもたちを誰がどのようにケアしていくかという深刻な社会問題をかなりデフォルメしてしまい、誤解を与えかねないような内容だったということははっきりさせておきたいと思います。 児童養護施設が恐ろしい場所として描かれ、そこで暮らす子どもたちに施設長が「お前らはペットショップの犬と一緒だ。もらってくれる人を見つけるには同情を誘うように泣けるようにしろ」と、泣く練習を子どもたちの朝食で強いるシーンが出てきます。子どもたちは自分たちが「ロッカーに捨てられていた」「赤ちゃんポストに捨てられていた」など、自分がどんな経緯でそこに来ているかの事情をそれぞれ知っています。里親や特別養子縁組の親の候補者の履歴書を子どもたちが見て、どれが良いかを選んだり……現実にはありえない場面がたくさん登場します。 私自身がこのドラマはまずいのでは?と感じたのは、児童養護施設で暮らす子どもの多くが虐待などを経験して、心の脆弱さをかかえている子どもが少ないことをかつての取材経験で知っていたからです。おどろおどろしく、施設の様子が描かれるこのドラマを見て、心の調子を乱す子どもが出るのでは? そう直感しました。 案の上、数日のうちにドラマを見て心の調子が悪くなって、リストカットしてしまったという施設出身者の話を耳にしました。児童養護施設が実施した聞き取り調査でもそうした子どもの存在が確認された他、小学校などでドラマを見た他の子どもから施設から通う子どもがからかわれた、などという現状も分かってきました。 児童養護施設の団体などが日本テレビに対して、放送見直しを求めたものの、当初、日本テレビ側は耳を貸そうとしませんでした。 子どもの虐待などの児童養護施設などの子どもたちの心の問題を調査研究している医師らによる「日本子ども虐待防止学会」のメンバーも「心に脆弱さをかかえる子どもたちのことを考えてほしい」と日本テレビに改善を要請した際にも、真剣に取り合ってくれなかったということです。