マネタリーベースの減少は問題じゃない? 日銀が発表する曖昧な文書
物価上昇率の2%目標に関するコミットメントなど、日銀が公表する文書には、政策決定会合後のリリースや展望レポートなど市場が注目するものが多くあります。中にはその表現ぶりをめぐってさまざまな憶測を呼ぶこともあります。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストが、そうした日銀の文書の読み解き方のポイントを解説します。 【表】景気後退はまだ先? 予想外に持ちこたえた日銀短観
2年で達成? できるだけ早期に?
日銀が公表する文書は、 曖昧な表現や抜け穴があることが知られており、その解釈をめぐって金融市場が動揺することがあります。 直近では「経済・物価の展望」レポート(日銀が3か月に一度公表)で、2%物価目標の達成時期に関する記述が削除された時のことが思い出されます。それまでは「2%程度に達する時期は、○○年度頃になる可能性が高い」といった具合に予想が明記されていたのですが、2018年4月公表分からそうした記述が削除されました。 2013年4月の「量的・質的緩和」導入時に「2年で2%!」というキャッチーな表現を用いて「15年続いたデフレに終止符を打つべく、2年以内に2%の物価目標を達成する」という政策スタンスを浸透させた節があるにもかかわらず、それを削除したわけです。当然のことながら「日銀が2年以内の物価目標達成を放棄した」との批判的な声があがりました。 それに対する日銀の説明が“巧み”でした。日銀は、消費者物価の前年比上昇率が2%に達する時期は「達成期限ではなく、見通しである」(黒田総裁)と説明しました。端的に言えば「はじめから2年で達成するとは言っていない、2年は飽くまで客観的な予想を示しただけ」というわけです。 それを踏まえた上で、2013年4月の量的・質的緩和導入時の声明文に目を向けると「日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%の『物価安定の目標』を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」とあります。つまり物価目標の達成時期は2年ではなく「できるだけ早期」です。“声明文をよくみて下さい”という訳である。