マネタリーベースの減少は問題じゃない? 日銀が発表する曖昧な文書
目的語は実績値ではなく「方針」
次に問題になりそうなのは、「マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する」というオーバーシュート型コミットメントです。 一見すると、この文章は「2%目標達成が可視的に確認できるまでマネタリーベースを拡大させる」と読め、“抜け穴”がないように思えます。しかしながら、目的語が曖昧な表現ゆえ、これが今後の焦点になりそうです。というのも、量的・質的金融緩和の導入初期局面において年率50%超のペースで増加していたマネタリーベースは、今や1桁%まで減速しており、前年割れが視野に入っているためです。仮にマネタリーベースが減少すれば「2%の物価目標を達成する前にマネタリーベースの拡大を放棄した」という批判混じりの声があがる可能性は高いでしょう。 ここで最も重要なことはこのコミットメントの目的語が「拡大方針」であり、マネタリーベースの実績値ではないことです。したがって、マネタリーベースが前年比で減少したとしても、日銀が「拡大方針は継続している」と説明すれば、不整合は生じないことになります。また「拡大」の比較時点が前年比なのか前々年比なのか等について明示的な記述はなく、この点においても厳格でないことがわかります。こうして考えると、今後発生するかもしれないマネタリーベースの減少は、日銀にとってさほど重要な問題にならない可能性があります。
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