〈本格始動したイラン新政権〉内政・外交の政策方針は?混沌の世界と日本外交の針路
2024年7月5日にイランで実施された大統領選挙決選投票で、改革派のペゼシュキアン氏が得票率53.7%で当選を果たし、8月21日の組閣を経て新政権が本格始動した。 【画像】〈本格始動したイラン新政権〉内政・外交の政策方針は?混沌の世界と日本外交の針路 同国では現在、革命(1979年2月)の理念を継承する保守強硬派勢力が優勢であることから、決選投票ではライバル候補の保守強硬派ジャリリ氏が優勢とみられていた。こうした状況の中、決選投票での投票率が、先立つ第1回投票(6月28日)の39.9%から約10ポイント上昇して49.7%になり、経済状況の改善などの「変化」を求める人々の声がペゼシュキアン氏を勝利に導いたのである。改革派政権の成立は、97年のハタミ政権以来のことであった。 中東では2023年10月7日のガザ危機勃発を受けて、軍事的緊張が高まっている。イスラエルによるハマスへの報復とパレスチナ人民への抑圧が続く状況に対し、イランおよび同国の支援するヒズボラやフーシ派などの「抵抗の枢軸」と呼ばれる民兵諸派が抵抗を強めている。このため、黒幕ともいえるイランの動向を把握することは極めて重要だ。 それでは、今回の政権交代により、イランは内政・外交の政策方針をどのように変化させるのだろうか。 この問いへの答えを考えるに当たり、ペゼシュキアン大統領の支持基盤に注目してみよう。投票結果をみると、ペゼシュキアン大統領に票を投じたのは、有権者の49.7%(投票率)の内の53.7%(得票率)、すなわち計算上は有権者全体の26.7%である。つまり、有権者全体の3割以下しか同大統領を支持していないことになる。この数字は革命成立から45年間で最低の数字であり、ヒジャブ強制着用などの強硬措置で国民からの支持が薄かったライシ前大統領よりも低い。すなわち、ペゼシュキアン大統領に対する国民の支持は弱い。 また、ペゼシュキアン大統領は、国内で強い発言権を有する革命防衛隊からの後押しも決して強くない。新内閣の顔ぶれをみても、ライシ前政権期には閣僚19人のうち3人の革命防衛隊出身者が入閣したのに対して、ペゼシュキアン政権に同隊出身者の名はほぼみられない。国会との関係に目を向けても、議員の3分の2以上が保守強硬派となる中、行政府と立法府の間で「ねじれ」が生じている。総じて、ペゼシュキアン大統領の権力基盤は脆弱だといえ、強い指導力を持って従来の政策を大きく転換させることには困難が伴うと考えられる。 次に、依然としてイスラエル・ハマス間の戦闘が続き、今年11月には米国大統領選挙も控える中、今後イランとその周辺国はどのような動きを見せていくのであろうか。