【ロングインタビュー】NMB48・安部若菜が明かす、小説の書き方とは?執筆速度が上がった理由は“分析力”
2024年12月6日、NMB48・安部若菜さんによる小説「私の居場所はここじゃない」が発売。同じ芸能スクールに通う5人の高校生の葛藤と成長を描いた青春小説で、2022年に発売後、実写ドラマ化もされた処女作「アイドル失格」以来、2作目の著書となる。 【写真】作家として、執筆する際のエピソードも話してくれた安部さん 今回は「私の居場所はここじゃない」の発売を記念し、“作家・安部若菜”としてインタビューに答えてもらった。 ■独自の執筆速度を上げる方法から見える努力 ――まずは、執筆期間の話を。2作目を書くにあたり、「1作目のときにあれがあったらなぁ」と思って用意したものなど、執筆中に1作目と2作目で具体的に違ったことはありましたか? 「ものというより状態なんですけど、1作目を経て“空腹のときに書いたほうが捗る”ということに気づきました。なので、今回は意識してお腹を空かせて書いていましたね」 ――ということは、NMB48の公演終わりでヘトヘトの状態がちょうどよかったり? 「はい、公演が終わってからも書いてました。1作目のときは『糖分摂取のために甘いものがあったほうがいいかな?』と思ってお菓子を食べながら書いていたんですけど、今回はもう、ブラックコーヒー1本で(笑)」 ――空腹のほうがいいって、どの段階で気づいたんですか? 「私、本当に集中力がなくて。だから今回2作目を執筆するにあたり、いろいろなパターンを試して記録したんです。『朝ご飯のあと』とか『家』とか場所と時間を記録して、どのパターンが一番効率よく書けたかを分析した結果、空腹のときでした」 ――ただでさえ忙しいのに、分析まで! 「そういうの好きなんですよ。1作目は書き上げるのに必死で筆も遅くて、1年半もかかっちゃったんです。でも今回は半年くらいで書けました」 ――すごくないですか、それ!大成長ですね。 「今回は速く書けましたね。1作目が本当に遅くて、反省したので(笑)」 ■安部若菜流の「小説の書き方」と悩み ――作家さんによって小説の書き方のタイプはさまざまだと思うんですけど、安部さんはどういう書き進め方をするんですか?たとえば、結末から先に書くタイプとか、イチから順に細かくプロットを立てるタイプとか。 「今作は結末を決めてしまわずに、ふんわりしたイメージから書き始めました。プロットは大きな流れだけ決めて、そこまで細かく立てていないんですけど、キャラクター設定だけはすごく細かく決めるタイプ。本編には出てこないような、誕生日や身長、趣味、好きな食べ物とか。人物像だけはきちっと詰めています」 ――たしかに、そういう作家さんもいますね。 「なので、あとから何回も書き直したりしました。今回は5人の高校生の物語で人物ごとに章立てしているので、特に終わらせ方に悩みました」 ――ということは、基本的に頭から書くタイプなんですか? 「そうですね!頭から順番に。今作は5人の章がありますけど、1人目から順に書いてますよ」 ――書きやすい章から書いたりするものだと思っていました(笑)。2作の小説を書いてみて、作家としての悩みなども生まれてきたんじゃないでしょうか? 「やっぱり、書くのが遅いことです。あと、物語のネタのストックもないので、もし3作目、4作目と続けて出版させていただけるなら、もうネタを考えておかないといけないなと思います」 ――なるほど、「書くのが遅い」と「ストックがない」ですね。でも書くスピードは克服されたと思うので、私も参考にさせてもらいます! ■「居場所に悩んでいる人って、多いと思う」 ※ここから作品の内容に触れるため、未読の方はご注意ください。 ――では、「私の居場所はここじゃない」について聞いていきますね。タイトルは安部さんが付けたんですか? 「はい、私が付けました。けっこう難航したんですよね…(笑)」 ――そうなんですか?作中にも「私の居場所はここじゃない」というワードがちょこちょこ出てくるので、すんなり決まったと思っていました! 「いやぁ、全然決まらなかったです。いろいろ案を出したのですが、しっくりこなくて。ただ、『私の居場所はここじゃない』も最初から候補にあったので、一周まわって戻ってきた感じです」 ――何案くらい候補を出したんですか? 「それはもう、ノートびっしりに(笑)。ちょっとバージョンが違うものを何十個も出したりしていました。やっぱりパッと見のインパクトがあるものを選びたかったので。今は、『私の居場所はここじゃない』というタイトルを見て、実際にそう思っている人にも手に取ってもらえたらうれしいな、と思っています」 ――作品自体もそういうお話でしたね。5人の誰かしらには共感できるというか、同じ悩みを抱えているというか。 「今、居場所に悩んでいる人って多いと思うんです。タイトルはあとから付けていますが、もともとこの作品のキーワードではありました」 ――先程、「キャラクター設定を細かく決めている」と言っていましたが、安部さんの中で「やっぱりこの子が主人公!」みたいな裏設定はあったりしますか? 「うーん、やっぱり1人目の“莉子”か、最後の“つむぎ”ですかね。莉子が芸能スクールに入るところから5人の関係が始まっていくので、一番物語を動かしているという意味では莉子なのかな、と」 ――「居場所がない」と悩んでいる莉子が、どんどん皆の居場所を作っていく過程がおもしろかったです。なので、『この子が主人公なんだろうな』と勝手に思っていました。 「莉子と関わることでちょっとずつ5人の関係が変わっていくのですが、『人と関わって生きていくこと』も物語の中でキーになっています」 ――そんな中で、最初は5人ともちょっとだけ嫌な奴というのもスパイスになっていると感じました(笑)。でもそれはあくまで表面上で、ちゃんと関わって掘り下げていくことが重要なんだと。 「だから5人は居場所が見つかったのかもしれないですね」 ■物語は“流れ”。でも意図的な要素も忘れない 「作中で5人の関係が深まっていくのですが、“5人で仲良し”にはならないように気を付けたんですよ」 ――それ、意図的に書いていたんですね!たしかに“仲良し5人組”にはなりませんでした。 「何人かのグループがあったとして、『Aさんとは仲がいいけどBさんと2人きりになったらちょっと気まずい』みたいなことってあるじゃないですか。そこのリアリティさを出したかったです」 ――あるあるですよね。今作でメインになる5人は女の子が3人、男の子が2人ですが、恋愛に発展させる構想はなかったのでしょうか?「アイドル失格」はラブストーリーでしたが、あえて避けたとか? 「ふんわり恋愛らしいシーンもあるにはあるのですが、それよりは“仲間”っぽくなっていきましたね」 ――今のお話で気になったのですが、作家さんとか作詞家さんとかで、「言葉が勝手に降りてきた」みたいなことを言う人がたまにいらっしゃるじゃないですか。もしかして安部さんも、「書いていたらそうなっていた」というタイプですか? 「どうやろう?でも私も、比較的『書いていたらそうなっていた』のタイプかもしれません(笑)。プロットの時点では箇条書きレベルなのですが、そこから勢いや流れで書いていることが多いです」 ――そんな“流れ”タイプの安部さんですが、流れで書いていたらあとから物語に大きな矛盾が発生したりしませんか?(笑)。 「ありましたねぇ(笑)。数千字を消して書き直したりとか。やっぱり、あとから『こうしたいかも』というのが出てきちゃいます」 ■4人組の「テトラ」からあかりを登場させた理由 ――作中に、1作目「アイドル失格」に出てくるアイドルグループ「テトラ」の“あかり”が登場しましたね!昨年のドラマ化を経て、彼女はかなり動かしやすかったのでは? 「もう、実写ドラマにめちゃくちゃ影響されましたよ(笑)。今作ではあかりが自分の過去の話をしているシーンがあるのですが、あかりを演じてくれた(上西)怜さんと過ごす中で、一つ書き加えた部分があります」 ――そんなリアルタイムなことが!? 「ちょうどあかりが出てくるシーンを書いているときに怜さんとレッスンが一緒になることがあり、そのときに勝手にあかりに重ねてしまって。書いていても、あかりなのか怜さんなのか…ということがありました。現実の怜さんが、この作品にも影響を与えてくれましたね」 ――私もしっかり“上西さん演じるあかり”で想像できたシーンでした。ちなみに、なんであかりを出そうと思ったんですか? 「最初から出そうと決めていたわけじゃなくて、物語を考えているときに、莉子がアイドルにあこがれるきっかけが欲しかったんです。本気でアイドルになりたいわけじゃない莉子を、どうしたら本気にさせられるかなって考えたときに、身内ネタにならない程度に出せるなら出したいと思いました。思い入れもありますし(笑)」 ――たしかに、あのシーンから物語が変わっていった気がします。 「『テトラ』は4人グループですが、あの中なら一番アイドルっぽいあかりかな、と。悲壮感のあるシーンが続いていたけど、あかりの無邪気さや明るさが空気を変えてくれましたね」 ■取材したのは「春」。逆に取材できないシーンも ――舞台を見に行くシーンなどがありますが、執筆中に取材のようなことはしましたか? 「はい、私も作中に出てくるのと同じような規模感の舞台に、フラッと行きました。そのときにお客さんの雰囲気をチェックしたりましたね。あとは、冬から春にかけての物語なんですけど、最後の春になるシーンを書いている時点では、現実の春は終わってしまっていて。だから現実で春が来ているうちに街の空気感などをメモしておきました(笑)」 ――「春」を取材したんですね(笑)。安部さんの作品は、「なんか見たことあるな」と思うシーンが多くてスルスル読めます。 「うれしいです!レッスンのシーンなどは自分の体験が活かせるところなので、特にそこのディテールはこだわっています」 ――逆に、「これは体験してないから書くのが難しい」というシーンはありましたか? 「ストーカーが出てくるところです。体験したことがないに越したことはないのですが(笑)、ちゃんと怖さを伝えないとと思いつつ、やっぱり難しかったですね」 ――体験してほしくないです(笑)。そのシーン、あまり長く書いていなかったのが印象的でした。大事件なので、長く書いてしまいそうなシーンですが…。 「わりとあっさり終わりましたね。でも意図的ではなく、これも流れでした。そもそも、あのシーンで助けに入るキャラを純平にしようとも決めていなくて、美華との関係性的に純平かな、くらいです。このシーンはストーカーが…というよりも、美華が心を開くきっかけを描きたかったですね」 ■「純平は、自分と似ているから書きにくい」 ――純平の章では、「特別」という言葉がたくさん出てきますね。今作は“居場所”がテーマだと思っていたのですが、安部さんが本当に書きたかったのは、「特別とは?」を問いかけてくるこの章なんじゃないかと感じました。「この章が書きやすい・書きづらい」というのはありましたか? 「実は純平が自分に一番近いキャラクターなのですが、一番書きづらくて。逆に私に似ていない美華の章が書きやすかったです。私も『特別になりたい』と思っていたからこそ、自分の気持ちを言葉にするのが難しくて、時間がかかりました。書いても、『こんなんじゃない!』ってなったり」 ――意外です。似ているほうが書きやすいと思っていました。 「『純平の章に共感する人が多そう』と思ったというのもあります。だからこそきちんと書かなければ、と。純平の章は、嫉妬とか感情がむき出しになるシーンが多いので、作中の一つの山ではあります」 ――純平と同じく、冬真も感情豊かな人でしたね。そもそも嫉妬や悩みの多い業界ではあると思うのですが、女の子3人はサバサバしていた印象です。 「莉子はまだその段階までいっていないので、今後そういう感情が出てくるかもしれませんね。たしかに、女の子3人、ちょっと大人っぽかったかも(笑)。でも一番か弱いのは美華ですね」 ――ちなみに、好きなキャラは誰ですか?5人以外でも。 「冬真の章に出てくる、冬真のバイト先のおじさん・佐古田(さこた)さんです。一周まわって人生楽しんでいる感じが好きです。ああいう大人が身近にいてほしいですね(笑)」 ――佐古田さん、いいキャラでしたね!「こういう大人いるよな~」って。安部さんの作品は本当にリアリティがあって、読みながら「こういう青春だったらよかったのに」と思いました。描写が細かくて豊かだから、読んでいるだけでいろいろな感情が沸き上がります。 「ありがとうございます。この作品を読んで、“なかったはずの青春”が蘇ってもらえたらうれしいですね。『こんな青春なかったけど、あったような気がする』って」 ――もし3作目が出るとしたら、またリアリティのある作品を書きたいですか? 「芸能界をテーマにした物語は自分の経験を活かせるので、書きたいとは思うのですが、全然違うジャンルにも挑戦してみたいです。ちょっとずつ芸能のジャンルから離れていきたいですね」 ――今後も楽しみです!では、最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。 「本作は芸能スクールに通う高校生のお話で、芸能界を目指していない人からしたらちょっと遠い世界の話だと思うかもしれませんが、読んでみたら絶対にそうは感じないはずです。まだ芸能界を目指しているただの高校生のお話なので、きっとそれぞれのキャラクターに自分を重ねながら読んでいただけると思います。読んだあとはさわやかな気分になってもらえるので、『芸能界の話かぁ』と敬遠せずに、手に取っていただけるとうれしいです!」 作家としての変化から作品への愛情まで、時折悩む表情を見せながらも、たっぷり語ってくれた安部さん。「“なかったはずの青春”が蘇ってもらえたら」と安部さんが語るように、「私の居場所はここじゃない」は、読む側を“6人目”にさせてくれる作品だった。 取材・文・写真=三浦あやか
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