『朧の森に棲む鬼』幸四郎、松也Wキャストで魅せる、歌舞伎の次なる新境地
松竹と劇団☆新感線がタッグを組み、市川染五郎(現:松本幸四郎)が主演を勤めて話題となった『朧の森に棲む鬼』。2007年の初演から17年、伝説の舞台が“歌舞伎NEXT”第2弾として甦る! 本作で主人公ライと、ライと対峙する四天王のひとり・サダミツ役をWキャストで演じるのは、“歌舞伎NEXT”第1弾の『阿弖流為』に続き主演を勤める松本幸四郎と、本作が“歌舞伎NEXT”初出演となる尾上松也。赤い髪、赤いネクタイという出で立ちで登場した幸四郎と、「幸四郎さんに合わせてきた」という赤いシャツとジャケットが印象的だった松也に、本作の見どころと、作品への熱い意気込みを聞いた。 【画像】その他の写真 “歌舞伎NEXT”は、歌舞伎の新たなるステージを目指して銘打ったシリーズ。新感線の座付き作家・中島かずきと、演出家いのうえひでのりが、劇団☆新感線でおなじみの骨太な物語とド派手な演出に、歌舞伎の技法・音楽、歌舞伎俳優たちの身体表現を得て放つ、究極のジャパニーズ・エンタテインメントだ。幸四郎は、『阿修羅城の瞳』(2000年)、『アテルイ』『髑髏城の七人』(2004年)、『朧の森に棲む鬼』(2007年)と、これまで数々の新感線作品に出演し、相性の良さは周知の事実。一方、『スサノオ―神の剣の物語―』(2002年)を観て以来の新感線ファンという松也は、『メタルマクベス』disc2(2018年)に主演して、新感線作品に初出演を果たした。 本作で再び主人公ライを演じる幸四郎は、「あれほど大きな刺激を受けた作品はない。歌舞伎と新感線の要素を“混ぜ合わせる”と何ができるかを発見していくのが、“歌舞伎NEXT”のテーマ。歌舞伎の音楽である竹本(たけもと)とロック音楽の融合など、いのうえさんを指揮者として、誰もやったことも観たこともない革新的な作品創りを目指しています」と目を輝かせた。 一方、「舞台だけでなく映像でも何度も観ている憧れの作品だったので、幸四郎さんとWキャストと聞き、光栄なのと同時にかなりのプレッシャーを感じた」というのは松也。「もともと新感線の舞台には歌舞伎へのオマージュがふんだんに盛り込まれていますが、なかでも『朧の森~』は歌舞伎で観てみたいと思っていた作品。やるからには、歌舞伎と新感線それぞれの良さが両方際立つ、ベストなものにしたい」と緊張感のなかにも意欲をみなぎらせる。 描かれるのは、シェイクスピアの名作『リチャード三世』『マクベス』と“源頼光の酒呑童子退治”を下敷きにした、嘘と欲望に支配される男の物語。古い神がそこで《魔物》になるという《オボロの森》。戦乱の世、舌先三寸で女や金を騙し取ってきたライは、その森で《オボロの魔物》と出会う。自分の命と引き換えに、この国の王座を我がものにするという契約を交わしたライは、魔物から与えた“オボロの剣”に、操られるように、嘘で人の心を操り、人を斬り、王座への道を駆け上っていくが…。 幸四郎も松也も、「とんでもなく悪い奴」と口をそろえる主人公ライだが、「ある意味、歌舞伎の“悪の華”にも通じる痛快さがある。徹底的に振り切って演じていきたい」(幸四郎)、「ライにとっては、悪こそが善で悪こそが彼の生きる道。悪が単純に悪と感じないところにこの脚本の深さがある」(松也)と演じがいは満点のよう。また、ライを演じない日はそれぞれがサダミツ役も演じるため、ふたりとも全公演に出演するのも注目の点だ。 「ライを演じるのは17年ぶりですが、新たな作品を作り上げるという意識が強い。体力面でも、前回以上の演技をお見せして、観客の皆様に大きな刺激と感動を届けられるよう頑張ります」(幸四郎)「前作が好きすぎて、つい前作のライやサダミツのイメージに引っ張られそうになりますが、ゼロから新しい作品を創り上げる意識で稽古に臨んでいます。幸四郎さんと僕、両方のバージョンを見ていただきたいので、最低2回は劇場に足をお運びください(笑)」(松也)。 音楽、立ち廻り、踊り、本物の水を使った滝の演出、宙乗りなど、すべての要素が見どころ。特に女方が演じるからこその女性キャラクターの存在感は、“歌舞伎NEXT”ならではと幸四郎が太鼓判を押す。新感線版からキャラクターを書き換えたという、尾上右近扮するキンタと、市川染五郎演じるシュテン(女役から男役に!)の絡みにも注目したい。 歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』 <東京公演> 12月26日(木)まで上演中 新橋演舞場 <福岡公演> 2月4日(火)~25日(火) 博多座