【アーセナル・分析コラム】前半をリードで折り返すと全勝。アーセナルが接戦でも守り勝てる理由とは
プレミアリーグ第37節、マンチェスター・ユナイテッド対アーセナルが現地時間12日に行われ、0-1でアウェイチームが勝利を収めた。この試合でアーセナルは相手チームによりボールを支配され、多くのシュートを打たれたが、前半に生まれた先制点を守り切り狙い通りの完封勝利を収めている。なぜ守ると割り切った彼らは強いのだろうか。(文:安洋一郎) 【動画】冨安健洋がフル出場!マンチェスター・ユナイテッドvsアーセナル ハイライト
●“難所“でアーセナルが狙い通りの完封勝利 2000年代前半のプレミアリーグを牽引していたアーセナルとマンチェスター・ユナイテッド。イングランドを代表する2つの強豪クラブの現在のチーム状況は対照的だ。 アーセナルは、ほぼ怪我人がいない中でプレミアリーグの優勝争いを繰り広げており、2024年に限定すると16試合で14勝1分1敗と絶好調だ。対するマンチェスター・ユナイテッドは、4人のCBと2人の左SBが引き続き起用できない上に、攻撃の核であるブルーノ・フェルナンデスとマーカス・ラッシュフォードも軽傷で離脱中。特に直近10試合は2勝4分4敗と大きく調子を落としている こうしたチーム状況の差から今節はアーセナルの圧倒的優位かと思われていたが、終わってみると1-0の辛勝という接戦となった。マンチェスター・ユナイテッドの本拠地オールド・トラッフォードでの試合だったとはいえ、この結果は意外と言えるかもしれない。 スタッツに目を向けると、ホームのマンチェスター・ユナイテッドがシュート本数とボール支配率で上回っており、これだけを見ると彼らのペースで試合が進んでいたように思えるだろう。 しかし、実際は調子がベストではなかったとはいえ、アーセナルの思惑通りの試合展開だった。今シーズンのミケル・アルテタ監督のチームは前節終了時点で前半をリードして折り返した試合は17試合で全勝。今節もそのデータ通り、20分に決まった先制点を守り切って勝利した。 なぜ、彼らはリードした状況で圧倒的な強さを発揮するのだろうか。 ●アーセナルがリード時に強い理由 前提として、アーセナルは「ハイライン」と「ローブロック」を使い分けることができる稀有なチームである。連動した「ハイプレス×ハイライン」で相手の自由を奪って試合を支配するのが彼らの主な戦い方ではあるが、“守り切る“と割り切って「ローブロック」を敷いても強さを発揮する。この2つの戦い方を状況に応じて高いレベルで実行できるのが、アーセナルがリード時に強さを発揮する理由である。 アーセナルのローブロックは相手のWGに対してSBとWGのダブルチームで対応し、仮にクロスを上げられてもゴール前を2人のCB+逆サイドのSB、マイナスの位置をアンカーの選手がスペースを埋めることでフリーの選手を作らせない。そして低い位置で無理に繋ぐことやボールキープをやめて、難しい時は迷わずクリアする。これを高い集中力で実行することで失点のリスクを抑えている。 ローブロックで成功した代表例がマンチェスター・シティとの第30節だろう。アウェイに乗り込んだこのゲームでアーセナルは、途中から試合に入った選手たちも含めた全員で集中した守備をみせてスコアレスドローに持ち込んでいる。 ただし、ローブロックで守り切るためには条件が必要だ。それが最終ラインに“守備に強いキャラクターを配置すること“ができるかどうかだ。すなわち、1対1の守備で脆さやボールウォッチャーになりがちなオレクサンドル・ジンチェンコはこの戦い方に合わない。マンチェスター・シティ戦でもヤクブ・クヴィオルが先発出場し、最後は怪我明けの冨安健洋が試合を締めていた。 今節は冨安がスタメンに入ったことで、このローブロックでの戦い方ができる環境にあった。ただ、「ハイプレス×ハイライン」というより相手を圧倒できる戦術的なオプションもあった中で、なぜ今節はマンチェスター・ユナイテッド相手に低い位置で守り切ることを選択したのだろうか。 ●効率よくマンチェスター・ユナイテッドと対峙したアーセナル 今節のマンチェスター・ユナイテッドはボランチのソフィアン・アムラバトが2人CBの間に降りるダウンスリーの形でビルドアップしていた。加えてGKのアンドレ・オナナも配球に優れた選手なため、アーセナルの[4-4-2]のプレスがハマりにくい状況にあった。 前半の開始直後こそプレスをひっくり返されてピンチを迎えることもあったが、アーセナルは20分に相手のラインコントロールの連係ミスを突いて先制に成功する。これが決定打となって「基本的にはリトリートで守りつつ、数的優位のカウンターで攻めることができるタイミングは一気に相手ゴールに迫る」割り切った戦い方を選択することができるようになった。 先述した通り、割り切って守ることを選択したアーセナルの守備は堅い。前半はマンチェスター・ユナイテッドに1本も枠内シュートを打たれず、68分のカゼミーロのミドルシュートが最初の枠内シュートとなった。 ゴール前を固めていることからシュートコースが限定されており、シュートブロックも6つ記録。61分にアレハンドロ・ガルナチョへの対応で、ベン・ホワイトとブカヨ・サカの間でのマークの受け渡しのミスこそあったが、守備時の連係ミスもこの一つぐらいだろうか。試合終盤こそアーセナルの選手たちの疲労が目立ち、カウンター時の判断ミスやパスミスで逆にカウンターを受けることもあったが、守備は一貫して集中を保つことができていた。 終わってみればほとんどマンチェスター・ユナイテッドにゴールを脅かされたシーンはなく、14本ものシュートを打たれながらゴール期待値はわずか0.75。明確にボックス内でシュートを打たれたのは1本のみで、ペナルティーエリアのライン近辺から3つ、あとの10本は全てボックス外からのものだった。 逆にアーセナルはペナルティーエリア内だけで7本のシュートを放っており、効率よく攻めたアウェイチームがスコア以上の完勝を収めた。 20年ぶりの優勝の行方は1試合消化が少ないマンチェスター・シティ次第ではあるが、今シーズンのアーセナルが強かったことは断言できる。そして現在が強さのピークであるようには思えず、ミケル・アルテタ監督の下で確実にチームとして成長を続けている。 今シーズンの熾烈な優勝争いを経験したことで、若い選手たちのメンタル面での成長も見込まれる。彼らの未来が明るいことは間違いない。 (文:安洋一郎)
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