デフリンピック・アルペンスキー男子大回転で銀の仙台大・村田悠祐…夏季大会は陸上で出場目指す
今年3月にトルコで開催された聴覚障害者の国際総合スポーツ大会「冬季デフリンピック」のアルペンスキー男子大回転で仙台大の村田悠祐(2年)が銀メダルを獲得した。同種目でのメダル獲得は日本男子初という快挙を成し遂げた19歳は、来年日本で初開催される夏季大会でも陸上競技での出場を目指し、挑戦を続けている。 (取材・構成=秋元 萌佳) 長野出身で、両親に連れられて物心ついた頃からスキーに乗っていた村田。生まれつき耳が聞こえなかったが、恐怖心はなく「とにかく速く滑りたかった」と夢中になり、小学5年から本格的に競技スキーを開始。友人からデフリンピックで日本人男子がメダルを獲得していないことを聞いてから「自分が一番最初にメダルを取る」という夢を持ち続けてきた。 進学した東京の高校にはスキー部はなく、体力づくりのために陸上部に入部。スキーは土、日曜や長期休暇を使って小学時代から通っていた地元・長野の聴者のチームに交ざって練習を積んだ。雪山では筆談のための紙のメモがぬれて使えず「コーチが手話を覚えてくれた」と支えにも感謝しつつ「コミュニケーションの違いでレベルの差が出てしまうので、自分から気持ちを話して動いていった」と誰よりも積極的に意思疎通を図って技術を磨いてきた。 今回のデフリンピックは初出場ながら、大回転で銀メダルを獲得しただけでなく、パラレル回転では7位、複合では9位に入った。夢だった日本人男子初のメダルに「夢がかなった」という喜びと同時に、0・11秒差で逃した優勝に「1本目で1位だったので、2本目に逆転されて悔しかった」とあと一歩届かなかった悔しさもにじむ大会となった。 デフリンピックを通じて「たくさんの国の選手と交流して、価値観が変わった」と見える世界が広がった。特に、日本と海外のろう者スポーツの理解度についてギャップを感じ「本当にアルペンは花形の競技の一つで、シーズンも長いし人気も高い」と盛り上がりだけでなく、サポートの差も痛感。海外ではデフ五輪レベルだと板やヘルメットなどはすべて支給され、メダルを獲得するとイタリアでは約1000万円の支援が出るなど「正直にうらやましいなと思いました。強くなるシステムがあるからレベルが高いんだと思った」と明かす。世界を知り「もっと面白さや素晴らしさを広げていきたいと思った」と自らの活躍を通じて、日本での知名度アップを目指していく気持ちも大きくなった。 仙台大では陸上とスキーに加え「団体競技にも興味があった」とアメフト部にも所属し、挑戦の日々を送る。来年日本で行われる夏季大会では、陸上の400メートル障害などでの出場を目指して研さんを積む。同大には100メートルで日本人初の金メダルを獲得した佐々木琢磨(31)が職員として所属しており「身近で偉大な先輩の技術を学んで力をつけていきたい」と意気込む。 幼い頃からの夢をかなえ、次に掲げるのは「スキーの種目すべてで金メダルを取って、世界王者というタイトルが欲しい」と貪欲に頂点を狙い続ける。「負けない気持ちで戦い続けて、自分の力を証明し続けていきたい」。力強く語る19歳の夢はまだ始まったばかりだ。 ◆村田 悠祐(むらた・ゆうすけ)2005年1月12日、長野県生まれ。19歳。小学5年からスキー競技を始め、明晴学園中、東京都立中央ろう学校高等部から仙台大。マーベル映画が好きで、憧れは「スパイダーマン」。168センチ、60キロ。 ◆デフリンピック 英語で「耳が聞こえない」という意味の「デフ」と「オリンピック」を合わせたもので、国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が主催し、4年ごとに開催されるデフアスリートを対象にした国際総合スポーツ競技大会。今冬のトルコ大会では36か国、598人が参加し、アルペンスキー、クロスカントリースキー、スノーボード、フットサル、カーリング、チェスの6競技が実施された。来年の夏季大会は11月から東京を中心に日本で初開催され、70~80か国、約6000人が参加して陸上やサッカー、自転車、空手など21競技が行われる。
報知新聞社