ブシュロンのパリ旗艦店にて、ジュエラーのブティックに宿泊するという特別な体験を。
ル・ヴァンシスは誰もが足を踏み入れられるエリアではないが、地上階にある3フロア吹き抜けの見事な温室のようなエリアでは、友人や家族の家に招かれたような温かみのある空間を堪能できる。「冬の庭園」と名付けられたここは、かつての個人邸宅に見られたような緑ある内庭に面したガラス張りの空間。鳥かご型のディスプレーケースにジュエリーが展示され、ランプも鳥がモチーフである。グリーンでまとめられた中に配置された珪化木のローテーブル、植物モチーフのファブリックの肘掛け椅子、壁に掲げられている孔雀の羽を素材にしたアート作品......、自然に包まれる空間に身を置くと、ごゆっくりお寛ぎくださいと家の当主から言われたような錯覚が起きる。
その昔、3代目ジェラール・ブシュロンの時代には、飼い猫のウラジミールが店内を散歩していたという。1979年にモデルとしてネックレスをつけて広告に登場した彼はメゾンのアイコニックな存在となり、ジュエリー作品にも登場している。
室内装飾を任されたピエール=イヴ・ロションは高級ホテルや個人邸宅を多数手がけ、居心地の良い空間作りには定評がある。リノベーションの合言葉は"現代の私邸"。
建物が建築された1717年から現在にいたる複数の時代のスタイルを盛り込み、ブシュロン家の歴史を本店内に作り上げた。開業時からグランドフロアにある秘密の部屋も守られている。それは中国風内装が施されたこぢんまりとしたサロンに設けられた、外に通じる小さな扉だ。人目につくことを好まない顧客のプライバシーを守るためだった。
フランスの豊かな宝飾史に貢献している顧客への配慮も、時代の流れで変化しているようだ。
26, place Vendôme 75001 Paris France 営)11:00~19:00 休)日 tel:33-(0)1-42-61-58-16 www.boucheron.com *「フィガロジャポン」2024年1月号より抜粋 photography: ©Boucheron, KEYSTONE-FRANCE//GETTY IMAGES