【プロの観戦眼28】ボールを引きつけてコースを隠すのが抜群にうまいアルカラスのフォアに注目!~森井大治<SMASH>
このシリーズでは、多くのテニスの試合を見ているプロや解説者に、「この選手のここがスゴイ!」という着眼点を教えてもらう。試合観戦をより楽しむためのヒントにしてほしい。 【連続写真】タメを作ってダウンザラインに叩いたアルカラスのフォアハンド「30コマの超連続写真」 第28回は日本体育大学硬式テニス部で監督を務める森井大治氏に話を聞いた。推薦するのはアルカラスのフォアハンドだ。ただしその理由は球威や球速ではない。 「もちろんスイングスピードもすごいですが、コースの隠し方がうまいんです」とのこと。「少し遅いボールが来た時に、アルカラスが引きつけて構えたら、どちらに打つかまずわかりません」と森井氏は舌を巻く。 速いボールに対しては、それに負けないようにスピーディーに打ち返すから、相手も自然に応対できる。しかしそうではない緩いボールに対して、アルカラスがポジションに入り、グッとタメを作ったら、そのコースは途端に読めなくなるという。 「もう打つだろうというところから、アルカラスはコンマ何秒かボールを引きつけるんです。そしてぎりぎりのタイミングで一気に振り出す。もともとのスイングスピードが速いからこそできる技で、こうなると相手は反応できません」 大半のプレーヤーは、もっと早いタイミングで打とうとするものだ。その方が相手の時間を奪うことができる。しかしアルカラスは、あえて遅らせて読みを外すテクニックが「ダントツにうまい」と森井氏は賞賛する。しかも、そのコースが自在なのが特筆すべき点だ。 「少し引きつけた場合、ヘッドが遅れるぶん逆クロスには打てますが、クロスには打ちにくい。でもアルカラスは、そこからクロスにも持っていけるんです。それは相手も棒立ちになるでしょう!」 それもまた、とてつもなく速いスイングスピードが可能にしていることだ。普通なら振り遅れるようなタイミングでも、アルカラスはクロスに引っ張れる。 速いスイングはパワーの源となるだけでなく、コースの選択肢も広げる――アルカラスのプレーはそれを教えてくれる。 ◆Carlos Alcaraz/カルロス・アルカラス(スペイン) 2003年5月5日生まれ。183cm、74kg、右利き、両手BH。15歳でプロとなり、21年に18歳でツアー優勝。22年にマスターズ2大会と全米OPを制し、史上最年少の19歳で世界1位の座に就いた。23年はウインブルドンでGS2勝目。コーチは元№1のJ・C・フェレーロ。 取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部) ※『スマッシュ』2023年11月号を再編集