「新プロジェクトⅩ」元NHK職員が指摘する初回放送の「違和感」と「危うさ」〈女性の活躍が無視されている〉〈同じ写真が何度も登場〉
「旧X」の悪い部分を受け継いでいた
4月6日から「ブラタモリ」に代わって「新プロジェクトX」の放送が始まりました。3月28日には「放送直前スペシャル」と題した長尺の番宣を放送、新橋駅構内でサイネージ広告も出稿するなど、NHKとしては異様なほどの力の入れようでした。 【一覧】テレビ局「本当は使いたくないタレント」…ワースト1位は意外な大御所…! 事前のプロモーションの甲斐もあってか、スイッチメディア社が提供するTVALnowの視聴率では、TBSの「オールスター感謝祭」と、僅差で同時間帯1位を争っていました。X上でもトレンド入りし、「感動した」という声が多数投稿されています。 私も初めて知ることが多く、プロデューサー気分で、放送を興味深く“試写”しました。しかし、初回の「東京スカイツリー」からは旧X同様の“危うさ”も感じました。制作スタッフの中には面識ある人も多いのですが、元NHK職員として番組がより良くなることを願い、敢えて遠慮せず指摘してみます。 「スカイツリー」は83分もの大長編でしたが、全体を通してみれば、「東京スカイツリーのような国家的プロジェクトの裏にも、師弟関係、ライバル同士のプライドのぶつかり合い、夫婦愛などの人間ドラマがあった」ということはよくわかりました。 しかし、番組のストーリーを成立させるために無理をしていると私は感じました。当事者のインタビューは短く切り刻まれ、ほとんどがナレーションで占められていたのです。そのナレーションに合わせて「塗り絵」するかのごとく、写真と資料映像を当てはめるような作りになっていました。 NHK内に眠る膨大な量のスカイツリーの資料映像を活用するのは良いとして、特に写真は全く同じものが何度も繰り返し使用されていて驚きました。しかも、写真に対してカメラワークやライティングの工夫も皆無で、編集機に画像ファイルを取り込んでごく簡単な加工をしただけというのは異様です。
チーフ・プロデューサーの妄想を押し付けられ…
なぜ、そんなことになったのか? 私がNHK内を取材したところ、旧Xで問題だった「編集室で話を作る」スタイルが今回も踏襲されていることがわかりました。 NHKの番組はディレクターがロケを行ったあと、通常は専用の編集室で編集マンと共に繋いだ映像をチーフ・プロデューサー(管理職)による3~4回の「試写」を経た後に、音響効果やテロップ入れ等の加工を加えて完成に至ります。編集室では「試写」のたびに「内容は事実に即していて問題無いか?」、「山あり谷ありの飽きさせないストーリーになっているか?」などを確認しては修正を重ねます。 ですが、「新プロジェクトX」の場合は、聞きしによれば10回以上も試写が行われているそうです。 通常、チーフ・プロデューサーは試写のたびに「ナレーションではこう言いたいから、合う映像を次の試写までに用意してくれ」と指示をします。すると、ディレクターは編集の合間を縫って映像の調達に奔走します。余裕があるうちは追加でのロケ(業界用語で「追撮(ついさつ)」)を設定するのですが、いよいよ追い込まれると写真に頼らざるを得なくなります。 「スカイツリー」も、恐らく、ストーリーを成立させるための映像が当初のロケ素材と資料映像だけでは足らず、同じ写真を何度も使わざるを得なくなったものと推察します。 このようにナレーションで全部処理して、CG・資料映像・イメージカット・写真などをあてこむスタイルは現場が疲弊するばかりか、過剰演出などに繋がる恐れがあります。私もディレクター時代に経験があるのですが、何度も何度も「こう言いたい」とチーフ・プロデューサーの妄想を押し付けられると、「もう好きにしろよ」と投抵抗する気力が無くなっていきます。NHKで事実に反する内容が放送されるケースの大半はこのパターンです。 初回の放送後、視聴者からは「女性の存在感が薄い」という指摘も上がっていました。大林組では建設工事の副所長に女性をあてていたようですが、こうした事実は昭和の時代の価値観が色濃かった旧Xを神格化するあまり、ストーリーから排除されてしまった可能性があります。3月28日に放送された番宣で出演者の野口聡一さんが仰っていましたが、今は昭和と異なり、働き方改革とコンプライアンスが重要な時代です。男性が主役、女性は内助の功という「旧X」の定番のストーリーを繰り返せば、視聴者からの反発の声が強まっていくことになるかもしれません。
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