人気の変額保険は「掛け捨て+NISA」に勝てるか?
株高やインフレのなか、変額保険への関心が高まっている。保険料を株式などで運用して資産を増やすことを狙う保険商品で、保険会社は「死亡保障を確保しながら資産運用ができる」とアピールする。だが、満期保険金や解約返戻金には元本割れリスクがあり、コストが割高というデメリットもある。一般の生命保険と比べて仕組みが複雑でわかりにくいため、契約には注意が必要だ。【毎日新聞経済プレミア・渡辺精一】 ◇株高やインフレで注目 変額保険は、保険契約者が支払う保険料を株式や債券などで運用する保険商品で、主に外資系生保や損保系生保などが取り扱っている。 一般の生命保険(定額保険)は将来の保険金額が契約時に定まるが、変額保険は運用実績によって保険金や解約返戻金の額が変動するのが特徴だ。 保険期間が決まっている「有期型」と、生涯保障が続く「終身型」があり、有期型は満期を迎えると満期保険金が支払われる。 変額保険の人気は高い。新規契約高は18年度の2.3兆円から22年度には7.2兆円に伸びた。「掛け捨て」の定期保険がこの間、37.7兆円から24.9兆円に縮小したのとは対照的だ。 さらに、有期型の変額保険の新商品が相次いで販売され、注目度が高まっている。 その背景には、株高やインフレという市場の変化がある。 一般の保険は将来の保険金額が決まっており、物価が上昇するとその実質価値は下がる。変額保険の保険金額は増える可能性があり、インフレには比較的強い。 また、少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(イデコ)が普及し、長期・積み立て投資が根付いてきたのも追い風だ。保険営業の現場では「保険と投資のいいとこどりができる」というセールストークがある。 ただし、変額保険には、注意すべきポイントが二つある。 一つは、運用実績は、あくまで保険契約者の自己責任であることだ。 変額保険の保険料は、一般の保険と異なり、生保会社の「特別勘定」で運用され、運用リスクは保険契約者がすべて引き受ける。 保険契約者は、生保会社が用意した投資信託のラインナップから投資先を選ぶ。運用面をみれば、自分で投信を購入して資産運用するのと変わらない。 万一、死亡したり高度障害になったりした場合は、基本保険金額が最低保証されており、運用実績が良ければ、それに変動保険金が上乗せされる。 しかし、有期型の満期保険金や、中途解約した場合の解約返戻金には最低保証がない。運用実績が悪ければ、元本割れの可能性がある。 投資性の強い保険商品であることから、販売する場合は、顧客の知識・経験・財産の状況や契約の目的を考慮して、不適当な勧誘をしてはいけないという「適合性の原則」ルールが課せられている。 もう一つのポイントは、コストが割高であることだ。 変額保険は、保障と資産運用のそれぞれで費用がかかる。保障に関しては、保険契約の締結・維持▽保険料の収納▽死亡保障▽特別勘定の管理――などにかかる費用が、資産運用に関しては、投信の管理運営費用などがそれぞれかかる。 さらに、生保会社が銀行などの販売会社に支払う代理店手数料も保険料から差し引かれる。ネット銀行の開示資料によると、ある外資系生保の変額保険の代理店手数料は契約1年目で支払った保険料の約7~80%、2~8年目で同1~11%と高水準だ。 保険料を運用するといっても、こうした費用が差し引かれて元手が減る分、不利になってしまう。 ◇「掛け捨て保険+投信積み立て」の代替プラン 変額保険の特徴は、死亡保障を確保しながら資産形成ができる点にあるとされる。だが、掛け捨ての定期保険の加入と投信の積み立て投資を別々に行っても同じ効果が得られる。 そこで両者を比較してみよう。 ある損保系生保の変額保険の場合、30歳男性が65歳までの保険期間35年、基本保険金額1000万円で契約すると、月払い保険料は1万9130円、35年間の保険料累計額は803万円になる。 65歳で受け取る満期保険金は、運用実績2.75%で1000万円、同5.5%で1810万円だ。 これに対し、30歳男性が65歳まで35年間、月々同額の1万9130円を負担して、「定期保険+投信」で死亡保障と資産運用を行うケースを考えよう。 ネット生保の定期保険(保険金額1000万円)に月払い保険料2100円で加入し、残りの1万7030円で毎月、投信に積み立て投資していくとする。 金融庁の「つみたてシミュレーター」で計算すると、投信の運用実績2.75%で1200万円、同5.5%で2164万円になり、変額保険の満期保険金を上回る。この差は変額保険の高いコストを反映していると考えることができる。 仮に、この男性が65歳になる直前に死亡した場合、差はさらに広がる。 変額保険の場合、死亡保険金は、運用実績2.75%で1000万円、同5.5%では満期保険金額の1810万円と同程度になる。 これに対し、定期保険+投信は、積み立てた投信残高に加えて、死亡保険金1000万円を受け取ることになる。つまり、投信の運用実績2.75%で計2200万円、同5.5%では計3164万円になる。万一の死亡保障を考えれば、定期保険+投信のほうが有利だ。 途中で気が変わって解約する場合はどうか。変額保険で、保険料累計230万円を払い込んだ10年後に解約した場合、戻ってくる解約返戻金は運用実績2.75%では201万円と元本割れし、5.5%で232万円とほぼトントンになる。 一方、定期保険+投信の場合、10年後の投信残高は運用実績2.75%で235万円と元本を上回り、5.5%では272万円になる。 税についても考慮したい。変額保険の満期保険金は一時所得として課税される。投信は運用益の約20%に課税されるが、NISAを使って投資すれば非課税になる。 ◇人生とともに死亡保障の必要性は変わる こうみると、変額保険の運用成果は定期保険+投信に比べて見劣りする。保険と投資の「いいとこどり」というよりは「中途半端でコストが高い」という点が目立つ。 そもそも保障と運用の両方を同じ商品に頼る必要があるかどうかも考えたい。 生命保険は一般に、家族構成や年齢、働き方、持ち家の有無などライフステージの変化に応じて必要な保障額が変わってくる。 例えば、子が生まれれば保険金額を増す必要が生じる。逆に、子が大学を卒業して社会人になれば大きな保障は不要になる。これまで支払ってきた保険料を自分の老後資金に振り向けることができる。 保障と投資は別々のほうが、ライフステージの変化に応じて、柔軟な対応が可能になることは意識しておいたほうがいいだろう。