最大の武器は「一緒に戦う」と「信じる」を貫く決心。全員が「人間的なAチーム」を目指す駒澤大高は終盤の決勝点で國學院久我山を振り切って9大会ぶりの全国へ!:東京
[6.15 インターハイ東京都予選準決勝 駒澤大高 1-0 國學院久我山高 AGFフィールド] 【写真】「マジで美人」「可愛すぎてカード出る」現地観戦した女子アナに称賛集まる ゴールを獲れる、ではなく、ゴールを獲る。試合に勝てる、ではなく、試合に勝つ。みんなで積み重ねてきたものを、みんなで築き上げてきたものを、信じる。あるいは“決心”とも言い換えられるような確かな覚悟を、200人を超える赤き勇者たちは全員が持ち合わせていたのだ。 「我々はメンバーに選ばれた選手だけで戦っているわけではないんです。200人以上の部員全員で戦いたいという意志は、絶対に駒大高校のいいところだと思っていますし、たとえ技術的にはBチームやCチームにいることになっても、人間的なAチームにいるような選手になってほしいということは常々言っているので、みんながあれだけ泣いていたのは、本当に嬉しかったんだと思います」(駒澤大高・亀田雄人監督)。 オール駒澤でもぎ取った9大会ぶりの全国切符!令和6年度全国高校総体(インターハイ)東京都予選準決勝が15日、AGFフィールドで開催され、2014年大会以来の全国を目指す駒澤大高と2大会連続の代表権獲得を狙う國學院久我山高が対峙した一戦は、後半36分にFW岸本空(3年)が挙げた1点を駒澤大高が守り抜き、2回目のインターハイ出場を決めている。 ゲームはやや静かな流れで立ち上がる。國學院久我山はキャプテンのMF近藤侑璃(3年)を軸にパスで攻撃を組み立てながら、中盤のインサイドに位置するMF安部凛之介(3年)とMF一色新(2年)がギャップでボールを引き出しつつ、右のFW田島遼太郎(2年)、左のFW藤田隼(2年)の両ウイングが縦へのスイッチに。前半17分には田島を起点に藤田が左へ流し、FW前島魁人(3年)が放ったシュートは駒澤大高のDF小池俊輔(3年)が身体を張ってブロックするも、らしいアタックでゴールを窺う。 一方の駒澤大高は「自分たちは3バックなので、その3枚でチャレンジして、カバーして、という部分で細かくコミュニケーションを取って、隙なく、抜かりなくやっていくということを意識しました」と話すDF嶋田結(3年)、小池、DF平岡潤大(2年)の3バックを中心に、守備の高い安定感は通常営業。21分にはMF森田敬太(2年)、FW内田龍伊(3年)と繋いだボールから、FW岩井優太(2年)が枠内シュート。ここは國學院久我山のGK太田陽彩(3年)がファインセーブで凌いだものの、前線の3枚で決定機を創出してみせる。 クーリングブレイクを挟むと、駒澤大高の出足が上回り始める。40+1分にはDF小熊鉄平(3年)の右クロスに、飛び込んだMF寺尾帆高(3年)のヘディングはクリーンヒットできず、さらにこぼれを森田、寺尾と残し、内田のシュートはDFに当たって枠を外れるも、厚みのあるアタックを披露。「前半の最後の方は自分たちが押し込むような形になって、そこでポジティブな印象を持ちましたし、『自分たちもやれるぞ』という肌感覚を覚えられました」(寺尾)。前半はスコアレスで推移する。 後半も先にチャンスを掴んだのは駒澤大高。6分。小熊のスローインを岩井がフリック。内田が右から折り返し、走り込んだ寺尾がフリーで放ったシュートは太田のキャッチに遭うも、悪くないアタックを。15分にも内田が蹴った左CKから、岩井のシュートはわずかにゴール左へ外れたものの、得点への意欲を打ち出し続ける。 交代カードを切りながら、攻撃のギアを上げたい國學院久我山は18分、途中出場のDF今井亮太朗(3年)とFW加藤瑛汰(2年)が細かく回し、前島が狙ったシュートは枠の右へ。19分にも近藤が左へ展開したボールを今井は丁寧なクロス。ニアに潜った前島のヘディングはゴール左へ逸れるも、9番のストライカーに続けてフィニッシュが訪れる。 駒澤大高を率いる亀田雄人監督は、信じていた。「ウチの選手も前半よりだんだん攻守で突っ込めなくなるシーンは出てきたなと。ただ、相手の足が止まってきている感覚も少しありましたし、ウチも途中から入れた3年生たちが悔しい想いをしながらやっていた子たちなので、彼らがやってくれると思っていました」。 37分。左サイドで獲得した駒澤大高のFK。スポットに立ったMF矢島礼偉(3年)がファーへ届けたキックを岩井が頭で折り返すと、中央で待っていたのは途中出場の岸本。「途中出場がここ3試合は続いていて、悔しさはありました。でも、その中で折り返してきたボールを意地でもねじ込んでやろうという気持ちが強かったです」。頭でねじ込んだボールは、ゴールネットへと到達する。スタメン落ちの悔しさを力に変えた3年生ストライカーが土壇場で大仕事。駒澤大高が1点のリードを強奪する。 アディショナルタイムが掲示される。時間は9分。「『長いな』と思いましたけど、それでも9分を長いとか言ってられないなって。実際に長かったですけど(笑)、『今日は自分たちの人生の懸かった試合だ』と話してゲームに入っているので、『何が何でも9分間凌いで、自分たちが最後に勝とう』というマインドにみんながなっていたと思います」(寺尾)「もう守り切るしかないなと。変に引いて守るというよりは、前からプレッシングに行って、やることを変えずに、正直9分は長いですけど、そこまで80分もやってきましたし、それをラストにちょっと続けるだけだったので、最後まで集中していこうという感じでした」(嶋田)。 加えられた9分間が過ぎ去ると、ようやくタイムアップを告げる主審の笛の音が彼らの耳に届く。「この勝利を目指して半年、1年、もっと言ったら3年間、自分たちはここまで掛けて準備してきて、今日の久我山は本当に強かったですけど、ピッチ内もピッチ外も含めて、全員で戦った結果として勝てて良かったと思います」(寺尾)。1次トーナメントから数えて6連勝を飾った駒澤大高が、2014年以来となる9大会ぶりの全国切符を力強く引き寄せた。 「選手たちも勝利に対する自信を持ってやっていたのかなと。今年のキーワードは『信じる』なんですけど、自分たちの勝利を信じるということを、みんなが思いながらやっていたと思います」。歓喜に沸く試合後。亀田監督はこの日の勝利について、そう話していた。 ディフェンス陣を逞しく束ねた嶋田が、『信じる』の解釈をもう少し詳しく教えてくれる。「『信じる』と言っても“過信”とはちょっと違って、自分たちはできるからやらなくてもいいとかではなくて、やるべきことをやれば勝てるというようなイメージなので、いつも通りというか、ちゃんとやるということを意識しています。練習中も『信じる』というのはとても大事なことだと思うんですけど、一歩間違えれば油断にも繋がってしまいますし、前日までにできる準備に完璧はないと思うんですけど、完璧に近づける努力をしていって、当日は今まで積み上げてきたものを信じるだけ、というイメージですね」。 前日までの準備で、完璧に近づける努力をしているのは、もちろん試合に臨むメンバーだけではない。「自分たちは“応援”ではなくて、“一緒に戦う”ということを意識して取り組んでいるところもありますね」(寺尾)「駒澤はスタンドの仲間も“応援”というよりは、“一緒に戦う”という認識なんです」(内田)。奇しくも2人がまったく同じことを口にする。200人近いスタンドの選手たちも、ピッチ上の選手たちと『一緒に戦う』ために心を整え、声を揃え、勝利だけを信じて、全力で勇気を送り届ける。 嶋田が笑顔で口にした言葉が印象深い。「昨日も準々決勝の大成戦の前も、応援団長の原ちゃん(原悠輔)と『原ちゃん、頼む』『結も頑張って』みたいな感じで話していたんですけど、ここまでの6連勝というのは、原ちゃんをはじめとした応援団のおかげだと思っています。あの声はメッチャ力になっていて、スタンドのみんなは応援してくれる仲間というより、一緒に戦ってくれる仲間ですし、今日の試合後も原ちゃんは泣きながら勝利を喜んでくれたので、『やっぱりみんなのおかげだな』ということは改めて強く思っています」。 キャプテンの寺尾が語った全国への抱負も、実に振るっていた。「スタンドからの声にはエネルギーをひしひしと感じますし、内側からゾクゾクッと来るような感じもあって、本当に自分たちを奮い立たせてくれるような形で一緒に戦ってくれたと思うので、そこに関しては本当に感謝していますし、これからも駒澤全員で、またいろいろなものを勝ち獲っていきたいなと思います」。 最大の武器は200人を超える選手たちが、万全の準備を施した上で、過不足なく携えている『一緒に戦う』マインドと、最後まで仲間を『信じる』気持ち。「まずは全国を獲ってから、目標は更新していこうという話をしていました。なので、僕が目標設定をして彼らに『勝て!』というのではなくて、彼らがどうしたいのかということをこれから聞いて、全国大会の目標設定をしていきたいなと思います」(亀田監督)。駒澤大高が総力を結集して戦う2024年の暑い夏は、ここからがいよいよ本番だ。 (取材・文 土屋雅史)