桧山進次郎の壮絶な代打人生
妥協を許さぬストイックさ
桧山進次郎は、早朝、お世話になった人達にメールを打った。 「朝早くからすいません。ご報告! 今シーズンをもちまして現役引退を決意しました。色々とお世話になりましたが、今後も宜しくお願いします」 一部スポーツ紙に「桧山引退」と報じられ、急遽、引退会見が設定されることになった。その前に自分の口から引退の意志を伝えておきたい……義理や人情を大切にする桧山らしい行動だった。44歳。阪神一筋22年……数々の代打記録を塗り替え『代打の神様』と呼ばれた男が、タテジマのユニホームを脱ぐことを決意した。 「正直、ホッとしている」 彼の会見での一問一答は、他の速報サイトを参考にして欲しいが、この一言を聞いて「ひーやんらしいな」と思った。 どうすれば打てるか? どうすれば試合に出れるか? 求道者のように崇高なモチベーションを持ち続けた。裏を返せば、それは準備や努力を決して怠ることができないという責任感でもある。 桧山には、知られざる異種プロスポーツ選手との交流がある。彼は、パーソナルトレーナーとして仲田健氏と契約して、フィジカルを鍛えることに取り組んできたが、その仲田氏を通じて、プロボクサーの元WBA世界Sフライ級王者、名城信男や、エディタウンゼント賞トレーナーの藤原俊志らとの交流があった。名城は、タイでの世界挑戦に敗れ、つい先日、帰国したばかりだったが、すぐに桧山から「お疲れ様でした」という労いの連絡が入ったという。 彼らに桧山選手とはどういう選手か?と聞くと、一様に「ストイックで妥協を許さぬ真面目な人」という返事が返ってくる。名城らは、毎年、1月にグアムで行われる桧山の自主トレに同行してきたが、そのトレーニングへ取り組む姿勢に驚いたという。現在、競艇選手に転向している金光佑治というボクサーが、一度、仲田氏の指導に逆らったことがあった。その時、普段は温厚な桧山が激高したという。 「なんのためにトレーニングをするのか? 仲田さんは、君のためを考えてメニューを組んでいるんだから。それを考えて見なさい」 名城は、桧山に、こう言われたことがある。 「プロである限りトレーニングに努力と時間とお金を惜しんだらあかんよ」 それが桧山の哲学である。