大竹しのぶインタビュー ~製糸工場の工女たちの青春を描く、感動の群像劇「あゝ野麦峠」~
寒さとひもじさに耐えた、冬山ロケ!
映画の冒頭、いろんな村から集められた少女たちが冬山を越えて、岡谷にある製糸工場まで歩いていく場面がある。このシーンを撮るためには背景に雪があることが必須だったが、撮影した年は記録的な暖冬で雪が降らなかったという。 「だから雪を求めてロケ隊は北上していったんです。私と友里千賀子ちゃんが雪の中を転がり落ちるところは、北海道の十勝地方で撮りましたから。いろんな場所で撮影したので、エキストラを集めるのが大変でした。本当は若い娘が連なって歩くんですけれど、そういう子ばかりを集めるのが難しくて、おじいさんやおばあさんに若い子の格好をさせて、出てもらったんです。だからいろんな人たちの協力なしには、とてもできなかった作品なんですよ。とても感謝しています」 寒い中で工女役の俳優たちは、団結力が高まっていったという。 「寒くても道が狭くてその場から動けないので、みんなでピンク・レディーの歌とかを歌って、温まろうとしました。またロケ弁がいつも、おにぎり二つに沢庵二切れなんです。それでドライバーの方が街まで行って、サバとかマグロの缶詰を買ってきてくれると、『御馳走だ』と言ってみんなで取り合いをしていました。みんなでいるから、それも楽しかったですよ」
工女役の訓練は、臭いに悩まされた
製糸工場内部のシーンは、東宝撮影所で撮影された。実際、明治期に使われた機械を持ち込んで、工女役の俳優たちは繭から糸を取る訓練を行った。 「2週間くらいかな。段々、糸を取るコツがつかめてくると、みんなよりも早く糸を取りたいと思うようになりました。困ったのは、繭を茹でると独特の凄い臭いがするんです。その臭いが体に染みついて、みんなで帰りの電車に乗ると、他の乗客の方が眉をしかめるほど臭うんです。私たちは臭いになれていきましたけれど、二度と嗅ぎたくない臭いでした」 みんなで過酷な撮影を乗り越えたかいがあって、公開された作品はその年日本映画第2位の配給収入14億円の大ヒットを記録した。 「その映画を45年ぶりに、こういう形で観てもらえるのは、さっちゃん先生が本当に喜んでいると思います。また4Kになるとすごく映像がきれいで、工場の中の湯気までちゃんとわかってビックリしました。さっちゃん先生が本当に1カット1カット、心を込めて作った作品ですので、多くの方に楽しんでもらえたら嬉しいですね」 今回は山本薩夫監督の遺作になった続編「あゝ野麦峠 新緑篇」(1982)も〈4Kデジタルリマスター版〉でテレビ初放送される。三原順子(現・三原じゅん子)や中井貴惠、岡田奈々、石田えりらが工女を演じたこの作品と合わせて、山本監督が作り出した人間ドラマの醍醐味を味わってもらいたい。 文=金澤誠 制作=キネマ旬報社