亡き娘 変わらぬ痛み 尽きぬ「なぜ」 牧之原・園バス置き去り遺族転居 孤独感から「解放」
地元なのに隠れて生活するのが耐えられなかったー。事件から約2年、遺族は娘との思い出が詰まった牧之原市に別れを告げた。2022年9月、認定こども園「川崎幼稚園」の送迎バスへの置き去りで亡くなった河本千奈ちゃん=当時(3)=の両親が24日までに、静岡県外の転居先で静岡新聞社の取材に心境を語った。 12月中旬。遊び道具を手にした2歳半の次女が、集合住宅の一室を所狭しと駆け回っていた。 居住空間は一軒家よりも確実に狭まった。それでも、常に周囲の目を気にしなければならない生活から解放されたことは大きい。「心理的に、だいぶ違いますね」。千奈ちゃんの父(40)が本音を漏らす。 ずっと孤独感にさいなまれてきた。事件の約2週間後に開かれた説明会で、園の早期再開を望む保護者の姿にショックを受けた。コンビニ店でもスーパーマーケットでも、行く先々で園関係者や保護者に会うのが怖くなった。職場に相談したところ、静岡県外への異動を提案された。娘のために建てた自慢の家を手放すのは心残りだったが、迷いはなかった。「今はとにかく仕事を頑張りたい。あとは次女のイヤイヤ期が早く終わらないかなと思っている」。一家の大黒柱として忙しい毎日を送る。 ただ、心の痛みは何一つ変わっていない。7月、業務上過失致死の罪に問われた事件当時の園長に禁錮1年4月の実刑、担任に禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決が下った。裁判長は判決宣告の後、「千奈ちゃんはお父さんやお母さんを悲しませるために生まれてきたのではない」「いつまでも恨みつらみを持っていると、千奈ちゃんが生まれてきた意味が変わってしまう」と、涙ながらに両親を諭した。 「あの時は心に刺さったけど、やっぱり無理です」と父。「怒りや恨みがなくなるとしたら娘がかわいそう。絶対生きたかったはずなのに」と語気を強める。母も「千奈ちゃんが帰ってこない限り許すことはできない」と言い切る。 自家用車の助手席の窓には小さな手形がまだうっすらと残っている。生前の千奈ちゃんが付けた。車検に出す時は必ず車内清掃を「不要」にして現状を保存してきた。 「今でも思います。なんで、いないのかなって」 父は、亡き娘の姿を今も追い求めている。
静岡新聞社