国連軍司令部は停戦管理責任を果たすべき 【寄稿】
キム・ヨンチョル| 元統一部長官・仁済大学教授 対北朝鮮ビラと拡声器放送は停戦協定違反であり、国連軍司令部の規定の明白な違反である。韓国側の違反を問題視せず、北朝鮮側の停戦協定違反だけを批判するなら、説得力に欠ける。責任を負わないのなら、権限も手放さなければならない。
国連軍司令部の役割が変わりつつある。米国は国連軍司令部を多国間安保機構にして、中国を牽制しようとしている。ドイツが18番目の加盟国として加わり、非常に懸念すべき日本の加盟に向けた扉が少しずつ開かれている。この時点で尋ねたい。国連軍司令部の存在理由は何か。ほかでもなく停戦体制の管理だ。非武装地帯(DMZ)が再び武装地帯に変わっており、対北朝鮮ビラと北朝鮮の汚物風船が飛び交い、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は拡声器放送を再開した。いずれも停戦協定違反だ。停戦体制が再び崩壊する間、国連軍司令部は何をしていたのか。 国連軍司令部が非武装地帯の出入りに関する権限を行使する度に掲げたのは「安全」だ。2019年6月、ドイツ政府代表団の江原道高城(コソン)の監視警戒所訪問を許可しなかったのは「安全上の理由」だった。2019年8月、統一部長官が大韓民国国民の暮らしている台城洞(テソンドン)村を訪問しようとした時、同行取材団の訪問を許さなかった理由も「安全」だった。2021年、尹錫悦大統領候補が軍服姿で非武装地帯を訪れた時、停戦協定違反だと指摘した理由もやはり「安全」だった。 「安全」を名目に行使してきた国連軍司令部の権限は、「安全」が破壊される時には責任を示すべきだった。権限には相応の責任が伴うものだ。国連軍司令部が作った規定もあるのではないか。非武装地帯に武器を持ち込むためには、国連軍司令官の承認が必要だ。北朝鮮軍の武装に対する事後対応ではなく、尹錫悦政権の先制的な武装化について、国連軍司令部は何をしたのか。国連軍司令部が非武装地帯の再武装を手をこまねいて眺めていたなら、自らの存在理由を否定したことに他ならない。 対北朝鮮ビラと北朝鮮の汚物風船はどうか。明らかに、北朝鮮の「汚物風船」は停戦協定違反だ。北朝鮮に向けて飛ばすビラも同様だ。憲法裁判所の判決は、既存の法律で対北朝鮮ビラを飛ばす行為を止められるにもかかわらず、新しい法律を制定したのは過剰禁止だという立場を示したものだった。尹錫悦政権が警察官職務執行法第5条1項や航空安全法のような既存の法律を厳格に執行すれば、北朝鮮に向けたビラ散布を止めることができる。当然、ビラを飛ばさなければ、汚物風船も飛んでこない。 解決に向けては韓国政府の意志が重要だが、国連軍司令部の責任もある。停戦協定の序文は「敵対行為と武力行為の完全な停止」を規定している。まず国連軍司令部が停戦協定順守の意志を示さなければならない。国連軍司令部の非武装地帯での飛行禁止規定も細かく定められている。ドローンや大型風船、模型飛行機など超軽量飛行装置の飛行を明確に禁止している。国連軍司令部はなぜ飛行禁止規定違反を問題視しないのか。北朝鮮に向けてビラを散布する団体以外に、規定を違反した事例があるのか。これらの団体は繰り返して規定を違反している。 北朝鮮向け拡声器放送はどうか。国連軍司令部は2017年に、拡声器設置の場所の交替、補完、修理、運用などに対する再開には国連軍司令官の承認が必要という条項を設けた。また、拡声器放送の場合、北朝鮮が対南宣伝放送をする際、国連軍司令官の承認を受けた対応放送だけが認められるようにした。韓国国防部の拡声器放送の再開は、明らかに国連軍司令部の規定違反だ。拡声器放送に懸念を表明したのは正しい措置だが、規定違反に目をつぶっていることは理解に苦しむ。 国連軍司令部は、韓国政府の立場を考慮せざるを得ないというかもしれないが、それでも少なくとも権限に見合う責任を示さなければならない。責任を負わないのなら、当然権限も手放さなければならない。対北朝鮮ビラと拡声器放送は停戦協定違反であり、国連軍司令部の規定の明白な違反である。韓国側の違反を問題視せず、北朝鮮側の停戦協定違反だけを批判するなら、説得力に欠ける。 2014年に米国が国連軍司令部の再活性化について論議を始めた理由は、(戦時)作戦統制権を韓国に移管し後、米国主導の多国間安全保障機構を作るためだった。現在、作戦統制権の移管に向けた議論は消え、国連軍司令部の役割の変化だけが進んでいる。持続可能な韓米同盟のためには、双方の利益のバランスが必要だ。米国は朝鮮半島の安全保障のコストを分担し、インド太平洋戦略を推進するために国連軍司令部の役割を変更することを目指している。韓国には朝鮮半島の平和を守り、実現していくべき宿命的課題がある。国連軍司令部が停戦管理の責任を回避しつつ再活性化ばかりに集中するなら、利益のバランスは保てず、韓国国民の多数の支持を得ることも難しい。 軍事主権が重要だ。主権という根っこがしっかりしているなら、いくらでも柔軟に合同戦力と多国間協力ができる。戦時作戦統制権が尹錫悦政権ではなく米国にあることに安堵する人も多いが、長期的に軍事主権は決して放棄できない国家の根本であることを忘れてはならない。 キム・ヨンチョル| 元統一部長官・仁済大学教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )