夜間清掃員が社用車を無断使用した“真っ当な理由”とは?
さらに、彼女はそのことを誰にも話す必要を感じなかった。自分がなすべき仕事を持っていたにもかかわらず、3時間をかけて空港まで往復した。社有車を使う往復200マイル(約320キロ)の「出張」をするのに誰の承認も得なかったのは、ただ、その送り迎えが「正しい」と思えたからだ。会社は空港への出迎えを監査人に申し出ており、その義務を果たす人がほかにいなかったので、まったくためらうことなく、さらに自分がしたと認めてほしいと訴えることもなくそれを実行した、というわけだった。 これがHOW企業とWHY企業の違いだ。夜間の清掃員であるクリスティーヌは、恐らくそれまで一度も、会社の車を仕事に使ったことなどなかったはずだが、監査人から電話があった時、これは会社に貢献できるチャンスだと捉えて実行した。ゾブリストはこう解説する。 「会社の問題に直面する時の彼女は、もはや『清掃員』ではなく、FAVIなのです」 こうした姿勢が従業員の間に定着してほしい、とかなわぬ望みを抱く会社は多い。実際、万が一HOW企業で従業員が会社のためにそんなに長時間持ち場を離れていたとしたら、その後には恐らく次のうちのどちらかが起きたはずだ。 最悪のケースでは、クリスティーヌは「持ち場を離れたこと」だけでなく、「会社の資産である車を無断使用したこと」を理由に罰せられたかもしれない。あるいは、(こちらの方が少しはましだが)会社は、清掃員が持ち場を離れた長さに驚きつつも、彼女を英雄扱いする可能性もある。 ゾブリストはどちらもしなかった。 「人々の行為を褒めたり罰したりすると、そうした行為が善悪の基準になってしまいます。クリスティーヌは自分が何か特別なことをしているとは考えませんでした。当社では、問題に直面して解決策を見つけると、誰もがただ実行に移します。事前に誰かに伝える必要も、許可を求める必要もないですし、事後にお礼を言う必要もありません」 そして、満足そうな笑みを浮かべると、ゾブリストはこう付け加えた。「ところで、クリスティーヌの自発的行動のおかげで、この監査人は当社の品質基準を10%引き上げてくれたんですよ!」