SAFだけじゃない、JALとANAが取り組む「環境技術革新」のすべて
JALの研究開発を支えるもの
JALは2018年からさまざまなイノベーションにまつわる組織を設立してきた。2018年4月には、新技術や新しいビジネスモデルの研究・開発を行う拠点である「イノベーションラボ」を設置した。ここでは、ドローンや電動航空機、さらには次世代の旅客機など、多くのプロジェクトが進行している。 2019年1月には、「イノベーションファンド」を設立し、総額7,000万ドル(105億円)の予算でスタートアップ企業への投資を通じて新しいアイデアや技術を取り入れることを目指すことを発表した。 そして2024年7月には「航空みらいラボ」を設立した。航空業界のシンクタンクとして、次世代航空機や空飛ぶクルマの研究が進められている。
ANAの宇宙事業化プロジェクト
一方、ANAも環境負荷を軽減するための次世代航空技術への投資を進めているが、そのアプローチは慎重なようだ。CO2削減の航空機に対する目標は、現行機のSAF使用を中心としている。 しかし、同社のイノベーションは別の方向性で進んでいる。それは、2021年より開始した宇宙事業化プロジェクトだ。内容は、サプライチェーン、衛星データ活用、宇宙運送の3つの領域にまたがる。航空機の運航で培ったオペレーションに関する知見を活用し、今後本格化する宇宙旅行事業など、さまざまな事業創出にチャレンジしている。 社外での取り組みとしては、愛知県のPDエアロスペースに出資すると同時に出向者を送り出している。2024年には、世界初の取り組みとしてロケットエンジンの燃焼実験を行うなど、事業を推進している。通常2つのエンジンを使用するジェット推進とロケット推進を1つのエンジンにすることで、軽量化や低コスト化につなげる狙いがある。 同社は、既存の滑走路を使用してロケットを打ち上げ、2031年には商用化し、2040年には宇宙旅行を100万円以下に抑えることを目標としている。 実は、JALも宇宙事業への投資を行っている。2017年には宇宙開発事業会社ispace社との提携で新事業に乗り出し、2022年には、月着陸船を打ち上げている。また、米シエラスペース社、大分県と兼松と共に大分空港を母港とした宇宙事業に参画している。
JAL・ANAが目指す2050年
このように、JALはシーグライダーや水素燃料航空機との提携やスタートアップ支援を通じて、革新的な技術を積極的に取り入れている一方で、ANAは同様に宇宙開発に投資を行う。 両社の比較では、JALは都市型モビリティの革新に注力し、未来の交通インフラ全体を視野に入れ、宇宙開発も行うオールマイティーに対応しているのに対し、ANAは環境対応に加え、宇宙開発を行い、航空技術の向上を目指している。それぞれ異なるアプローチを取りつつも、持続可能な航空業界の未来に向けた挑戦を続けている点で、共通の目標を共有していると言えるのかもしれない。
執筆:航空ジャーナリスト 北島 幸司