前代未聞の事件はなぜ起きたのか? レスリング世界選手権を揺るがした“ペットボトル投げ入れ事件”
絶好調・曽我部京太郎が見せた大金星“目前”の戦い
ところが、この日の曽我部は絶好調だった。第1ピリオドからオリンピック金メダリストを相手に臆することなくプレッシャーをかけ続け、グラウンドのローリングによってあっという間に7-0と早々と王手をかける。グレコローマンスタイルでは8点差以上の点差がつくと、テクニカル・スペリオリティ(前名はテクニカル・フォール)という名のコールドゲームと見なされその時点で試合は終了する。 曽我部の大金星目前に興奮するしかなかったが、レスリングではたとえポイントを大きく離されていても、流れやリズムを少し変えるだけで、逆転することも十分に可能だ。とりわけグレコローマンでは何かをきっかけに、大逆転するようなダイナミックな展開がよく見受けられる。 案の定、第2ピリオド開始早々、ゲラエイは反撃を開始。バックを取ったかと思えば、リフトして投げ捨てビッグポイントを奪い、あっという間に1点差まで詰め寄った。さらにゲラエイは俵返し(サイドスープレックス)を仕掛けようとするが、曽我部は踏ん張って再び攻守逆転。相手の胸や腹のあたりを両腕でクラッチして回転させるテクニック──ローリングによって、テクニカル・スペリオリティに該当する15-6まで点差は開いた。 筆者が「大金星だ!」と喜ぼうとした刹那、ゲラエイサイドはチャレンジを要求した。VTRによる再確認によって、曽我部はローリングを仕掛ける際左手が相手の足にかかっていると見なされ、この攻撃による加点はすべて無効とされてしまう。結局、点数は7-8と逆にゲラエイが1点リードという形に修正された。 このチャレンジによって試合の流れは大きく変わるかと思われたが、ここで曽我部は地力を発揮して10-9と逆転に成功する。この時点で残り時間は1分15秒もあった。誰の目から見ても、曽我部にスタミナは十分残っているように見えた。対照的にゲラエイのほうは攻め疲れたのか、明らかに疲労の色を見せていた。