群馬・前橋が「いま熱い」のはなぜ? レトロな街がアートと建築で進化
■市民の声から生まれたミュージアム
2013年に開館した白いパンチングメタルの外観が印象的な「アーツ前橋」は、白井屋ホテルのすぐ近くだ。2023年には開館10周年を迎えるにあたり、森美術館特別顧問の南條史生氏がアーツ前橋の特別館長を務め、10周年記念展を開催。前橋にゆかりのある美術関係者による実行委員会が行う展覧会もあり、やはり市民の美術に対する愛情と熱意を感じる。 白井屋ホテルのすぐそばを流れる馬場川はかつて、前橋の近代化を支えたレンガ造りの製糸場にちなんでレンガを敷き詰め、ベンチを配置するなどして居心地の良い公共空間に改修された。こちらも民間主体で、太陽の会からの3億円の寄付を原資に、寄付者の名前入りレンガを敷設するなどして費用の一部を賄っている。 市民の建築やアートに対する姿勢や地方だからこその取り組みやすさ。白井屋ホテルという先駆的な存在もあり、気鋭の建築家によるデザインアパートやテナントビル、複合施設などのプロジェクトが後を絶たない。白井屋ホテルの横には建築家の谷尻誠氏と吉田愛氏(SUPPOSE DESIGN OFFICE)が設計した複合ビルが建ち、サテライトオフィスとカフェ、店舗、住戸が入る。 馬場川通りと交差する前橋中央通りは古くからのたたずまいの店舗が並ぶ中に、そんなレンガ造りの建物が並ぶ一角がある。米ポートランドの手作りパスタ店は中村竜治氏、デザイン会社が営む和菓子店は長坂常氏、海鮮丼の人気店は高濱史子氏、起業家企画によるカレー店は永山祐子氏と、どれも魅力のある飲食店で気鋭の建築家による設計だ。 こうしたプロジェクトだけでなく、若手ビール職人によるクラフトビール醸造所とパブができていたり、フードカートが出ていたり。歴史的でレトロ感のある街中での新しい発見が楽しい街だ。何度か訪れると、また変化が見られるのも面白い。アートと建築でなお進化を続ける前橋から目が離せない。 文:小野アムスデン道子(ライター)
小野アムスデン道子
旅行ガイドブック『ロンリープラネット日本語版』(メディアファクトリー)の編集を経てフリーに。東京と米ポートランドのデュアルライフを送りながら、国内外の旅の楽しみ方を中心に、食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース。日本旅行作家協会会員。 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。