深刻な“麻酔薬不足”に現場の医師悲鳴!抜歯、分娩、がんの手術…さまざまな箇所で影響が
無痛分娩を行っているレディスクリニック・セントセシリア(青森県青森市)の院長・上田克文さんは「当院ではアナペインを使い切り、ポプスカインも品薄のため、代替薬マーカインを海外から調達して使用している」と明かす。しかし、こんな懸念も――。 「麻酔薬がコロコロ変わることにより、治療にあたるスタッフが混乱して、投与ミスなどが起きないか、という心配があります」 同院ではナースセンターに薬の調整法を大きく貼り出し、ダブルチェックをしてミスのないよう十分注意して対応しているという。現場で涙ぐましい努力が続いているいっぽうで、医薬品の安定供給を所管している厚生労働省は、いたってのんきだ。本誌が担当部署に尋ねると、次のような回答が。 「この状況はわれわれとしても深刻に捉えています。注視しておくくらいしかできないのが、われわれとしてももどかしいところです」 加えて厚労省からは、こんな情報も得られた。 「アナペインの後発医薬品が薬事承認されたと聞いているので、そちらの流通がいつごろ開始されるかも注視しております」 現在、薬価を決める手続きを行っているため、「後発薬の供給時期はいまのところ未定」だという。供給停止が解消されなければ、患者の容体によっては1カ月単位でのがん手術の延期、また親知らずの抜歯などの手術がずるずる後回しに……、ということになりかねない。アナペイン以外の局所麻酔薬も「限定出荷」が多出しているので、いずれほかの疾患の治療にも波及してくる可能性もある。 いったい、なぜこんなにも医薬品不足が長引いているのか。前出の上さんは次のように指摘する。 「根本原因は、海外と異なり政府が薬価を決定し、さらには後発薬のパッケージの記載方法まで指定していることです。これが海外企業の参入も阻んできました」 厚労省は当初、国内の小規模メーカーも参入できるよう、海外の後発薬に比べて薬価を高く設定し、メーカーを手厚く保護してきたという。 「しかし数年前から急激に薬価抑制を進めたため、メーカーは採算がとれなくなった。製造不正もそれが一因です」(上さん) 本来、後発薬はグローバル規模で薄利多売しなければ採算がとれない。それにもかかわらず、厚労省が薬価を決めていることが国内メーカーの競争力の低下を招いた、と上さんは指摘する。 「この体制を改めない限り、薬不足は解消されないでしょう」 多くの患者の命を左右する薬の供給不足。国は注視するだけでなく、具体的な打開策を見いだしてほしいものだ。
「女性自身」2024年10月22日・10月29日合併号