「知識が邪魔することもある」二人の天才が語る、無知であることが武器になる「納得の理由」【山中伸弥×羽生善治】
想像を絶する速度で進化を続けるAI。その存在は既存の価値観を破壊し、あらゆる分野に革命をもたらしている。人知を超えるその能力を前に、人類はどう立ち向かうべきなのか。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 それぞれの分野の最先端を歩む“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が人間とAIの本質を探る『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋して、新時代の道標となる知見をお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第23回 『「3つしかない」ノーベル賞科学者・山中伸弥が明らかにする、意外過ぎる「成功者」になるための裏ワザ』より続く
「無知」の強み
羽生 他の人たちが手を付けないところに、「じゃあ、やってみようか」と踏み込めたのはどうしてなんでしょうか。 山中 そこなんです。すでにお話ししたように、もともと僕は整形外科医だったんですね。学生時代から整形外科医になりたかった。特にけがをしたスポーツ選手を復帰させることを専門にしたスポーツドクターになりたいと思っていたんです。だから学生時代、整形の授業だけは全部一番前で聞いていました(笑)。他の授業は、ラグビーをやって出たり出なかったりで偏っていたんです。 実際、整形外科医になったんですが、なかなか人生思ったようにうまくいかないですね。そもそも整形外科の患者さんでスポーツ選手は、実はそんなに多くないんです。少なくはないけれども、スポーツによるけがの中でも、脊髄損傷などとても治せないようなけがや病気の方がたくさんおられました。それでまず、「これはちょっと僕の思い描いていた世界ではない」と参ってしまいました。
知らないことだらけで研究
山中 それで結局、研究を始めてしまったんですね。でも研究を始めて愕然としたのは、学生時代サボりまくっていたので、基本をまったく知らないということでした。基本的単語さえわかっていない。 ゲノムの世界ではエクソン、イントロンという用語があります。ゲノムの配列で、エクソンというのはタンパク質を作る部分で、イントロンというのはそれとそれの間の切り取られる部分です。そんなのは中学生や高校生でも知っているんじゃないかなと思うんですけど、僕は大学院に入ってそれを見た時に、「何やこれ?」と思いました。見たことも聞いたこともない。そこからスタートしました。それが結局、今も続いているんですね。 羽生 そうなんですか(笑)。 山中 いまだに知らないことがいっぱいあるんです。今は減りましたけど、昔は学生さんに授業をすることがあって、特に京大の前にいた奈良先端科学技術大学院大学は、教育もしっかりしていました。自分の研究室を初めて持たせていただいた大学です。そこは大学院なんですけれども、4月から始めて半年くらいは、ずっと授業をするんです。 だから僕たちも分厚い教科書を順番に教えるんですよ。でも教えていながら、知らないことばっかりで、知らないことを教えるって「困ったなぁ」(笑)。学生さんはけっこう勉強しているので、僕よりもよく知っているんですよね。「絶対、バレるな」と思いながら、冷や汗を流して続けていました。 でも、その無知さによって、ある意味、怖いもの知らずでやっていました。iPS細胞の研究も、まさにそうです。知識があったら怖くてできなかったと思うんです。でも知らないものだから、「じゃあ、やってみようか」と思えたところがあるんですね。