「アゴクイ」、「肩ずん」、「俺コス」……進化する“壁ドン”マンガ
漫画で女子が「胸キュン」する仕草として人気の“壁ドン”。男子が壁に手をつき、女子に迫るシーンのことを指すが、その“壁ドン”に、次々と新しいパターンが生まれていると言う。マンガランキング書籍「このマンガがすごい!」(宝島社)の編集長、薗部真一氏に解説してもらった。 -------------------- “壁ドン”とは、「女子が背にした壁に向かって男子が腕にドンと手をつく。そして、見つめ合って……」というシチュエーションのこと。2014年の「新語・流行語大賞」でも、マンガ原作の映画『L DK』が受賞しているので、聞いたことがある方も多いだろう。 “壁ドン”は、受賞した『L DK』はもちろんだし、日清カップヌードルのCMに登場した、『アオハライド』(咲坂伊緒著)など、いまや人気少女マンガには必ずといってよいほど登場する、鉄板の“萌え”シチュエーションだ。さらに、マンガの表現としてはもちろんのこと、ジャンルのひとつとしてすら、その地位を確立した感がある。
何が人気? いつから?
私が編集をしている『このマンガがすごい!WEB』で、特集記事「胸キュン必至! 女子がときめく“壁ドン”マンガベスト10」は、記事のアクセスランキングの上位に半年以上、入り続けているというくらい、“壁ドン”は人気ネタだ。“壁ドン”マンガの第1位はもちろん、『アオハライド』で、主人公・双葉に避けられていると感じた洸が、双葉を問い詰める、ドキドキのシーンが人気だ。 “壁ドン”という言葉をだれが言い始めたかに関しては、諸説があるようだが、個人的に思い出せる最初の“壁ドン”は、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」第73巻で、スーパー金持ち・白鳥麗次が派出所のマドンナ・麗子に対して行った“壁ドン”だ。
“壁ドン”絶賛進化中!
現在、大手書店などで開催された“壁ドン”フェア(“壁ドン”が登場するマンガのフェア)も盛況で、さまざまなマンガにありとあらゆる“壁ドン”シチュエーションが盛り込まれるなど、ちょっとしたバブルの趣すらある。 この、“壁ドン”表現のバリエーションは、まさに百花繚乱で、ちょっとおもしろいことになっている。ガラス越しに2人の男子に壁ドンされる「壁ドンサンドイッチ」(『私たちには壁がある。』築島治)などは、「あー、いいの思いつきましたね!」と感心するほかない、ナイスな派生である。このほか、派生型には、「床ドン」「股ドン」「足ドン」「手首ドン」「肘ドン」「両手ドン」なんてのもあるようだ。 同じく出版に関わる者としては、ちょっとウケたら、もっとウケるなにかを見つけたくなるのは当然だと思うが、各出版社(漫画家さんも?)競って、“壁ドン”に変わる新しい何かを探そうとしている……のか、どうだかわからないが、“壁ドン”は、いつのまにか、さらなる進化を遂げつつある。 たとえば、『黒崎くんの言いなりになんてならない』(マキノ著)に代表される「顎クイ」がそれだ。「男子が女の子のアゴを『くいっ』とする! 次は当然キス……!?」というアレなどが、“壁ドン”の系譜のネクストブレイク最右翼というべきものだろう。 「ああ、私って彼のこと好きだったんだわ!」という気づきこそ、恋愛マンガにおける恋のクライマックスだ。マンガの表現技法という観点から見れば、“壁ドン”は、恋する二人の関係を理性を超えたドキドキを生み出すシチュエーションに、強制的に持ち込む技だ。これはもちろん「顎クイ」も同じ。“壁ドン”マンガがウケるているのは、このドキドキへのノンストップ感ゆえかもしれない。