秋田県、ニコニコ動画で「山手線ジャック」計画
深刻な人口流出に悩まされている秋田県が、県の魅力をアピールすることで移住人口を増やそうと、山手線の車両を秋田県の広告で「ジャック」する計画を企てていることが、秋田県への取材で分かった。車内の広告に用いるのは、県が今月公式生放送した「ニコニコ動画」の画像や動画。9月に11両編成の車両の全広告枠を2週間借りる予定で、東京メトロの主要路線でも計画している。 ジェイアール東日本企画によると、地方自治体がJRの車両を借り切る形で広告するのは観光キャンペーンでは例があるが、移住対策としては異例。
秋田県では2005年以降毎年1万人以上人口が減少し続けており、昨年の人口減少率は全国最大だった。危機感を持った県は今年、国の地方創生関連の予算を使い、移住を促す大規模な広報戦略を展開。出版大手KADOKAWA(東京都千代田区)と1億3千万円で契約し、同社と経営統合したドワンゴのコンテンツ・「ニコニコ動画」での生放送や、映画上映前のコマーシャル、雑誌や書籍の帯など、同社が持つあらゆるメディアを総動員した広報を始めている。今月1日から7日にかけて放送した秋田県公式のニコニコ生放送は、これまでに13万回以上再生されている。 「山手線ジャック」計画も、県が同社と仕掛ける広報戦略の一環だ。生放送したニコニコ動画の動画を編集して車内で放映し、中吊りなどのあらゆる広告をニコニコ動画風の広告で統一するという。秋田県人口問題対策課の担当者は「若い世代への訴求を強く意識した」と話し、「まず秋田県に耳と目を向けてもらうことが大事」とその狙いを語る。県としては、大規模な広報を秋田県に興味を持ってもらう「入り口」とし、そこから住まいや雇用など移住に関する情報が掲載された県のポータルサイトの閲覧や、東京都内の移住相談窓口への訪問につなげたい考えだ。 一方、多額の税金を投入しての広告に、県民からは「税金の無駄遣いではないか」との声も上がっている。こうした声に対し、県は「移住はすぐに効果が出るものではなく、かかる費用に対して移住による経済効果がどのくらいあるのかを算出するのは難しい」としつつ、「地域に活力を与える人が集まって起業したり、若い人が家族を連れてきて何十年も住むことになったりすれば、大きな経済効果となる」と説明する。県は政策の費用対効果について、今年度については「東京の移住相談窓口の利用者数がどのくらい増加したかを一つの指標としたい」としている。 県によるとニコニコ動画配信事業は2千万円、「山手線ジャック」の費用は2~3千万円ほどといい、あらゆるメディアを使った広報を考えて予算を積み上げていったところ、1億3千万円の予算規模となったという。そのほか移住者の希望に合わせて空き家を改修する事業や、起業を考えている移住者向けの支援策などを合わせると、県の移住促進政策は3億円規模に上る。「思い切った形で、エッジの効いた発信をしたかった」という秋田県の試みは、若者の心に届くだろうか。 (安藤歩美/THE EAST TIMES)