“記憶のとらえようのなさ”を表現した「解像度が変わるドット絵」が面白い
壁に設置されたディスプレイに浮かぶのは、巨大な正方形の並び。 一見すると現代美術の抽象画のように見えますが、側面に付いているダイヤルを回すことで解像度が変化し、俯瞰した建物のドット絵が浮かび上がります。 【画像】Yosca Maedaさんのピクセルアートをもっと見る この作品は、ピクセルアーティスト・Yosca Maedaさんが開催中の個展「Afterglows」に展示されているもの。 風景がピクセルの中で浮かんでは溶けていく様子を眺めるのは、水中のぼやけた視界の先を見つめるような、自分の認識と向かい合っているような……不思議な感覚です。 一体どのようにして、この不思議な感覚を生み出しているのでしょうか。Yosca Maedaさんに話を聞くと、記憶の「とらえようのなさ」を感じられるよう気を配ったと話してくれました。
ゆずMVも手掛けたピクセルアーティスト・Yosca Maeda
Yosca Maedaさんは神奈川県出身のピクセルアーティスト。 2020年より作家活動を開始し、「Shibuya Pixel Art Contest 2020」で最優秀賞受賞。2022年には、音楽ユニット・ゆずの楽曲「ALWAYS」のMVを担当しています。 以降は主にMVやCDジャケット、CMなどで映像作品やループGIFを中心としたピクセルアートを制作。このほか「ほぼ日」での記事執筆、ゲームイラスト、NFTなど、多岐にわたる活動を展開しています。 今回の解像度が変化する展示が目をひく個展「Afterglows」は、12月22日(日)まで東京・日本橋のギャラリーNEORT++(ネオルトツー)で開催中。 展示方法やイラスト制作のインスピレーション、NFTサービス「Highlight」を利用した専用チャットなどのユニークな試みについてお話をうかがいました。
抽象化されたピクセルアートは記憶と向き合うきっかけになる
──解像度が変わる展示のアイデアはどのように思いつきましたか? Yosca Maeda 自分自身の温かく優しい記憶を、ピクセルのループアニメーションとして表現することと、それを再解釈して抽象化するという発想が土台にあります。 具象として描いた心象イメージを抽象化(圧縮)するとどのような状態になるのか、という考えから始まりました。 たとえば、縦横が270x480ピクセルの作品の比率は9:16なので、極限まで圧縮すると9x16ピクセルになります。その中で、自分が残したいと思う色やコンポジション(編注:構成)を選ぶことで、自分の記憶の究極の抽象を捉えることができると考えています。 今回制作した装置に触れていただくことで、鑑賞者は具象と抽象の間を行き来しながら自身の記憶の姿と向き合うきっかけを得ることができると考えています。 ──実装の際に苦労した点や気を配った箇所はどこでしょうか? Yosca Maeda 今回、ハードウェアやプログラム面では、NEORTチーム(今回の展示ギャラリーのチーム)にご協力いただきました。 ダイヤルを回すとプログラムによって、ピクセルが崩れたような見た目に変化します。 具象から抽象へ、または抽象から具象へと向かう過程にランダム性を持たせることで、記憶という姿形を持たない存在の「とらえようのなさ」を感じられるよう、特に気を配りました。