なぜ喫煙所の閉鎖が相次ぎ、分煙環境を悪化させるのか…防衛費増強の「たばこ増税」に逆行する動きを放置する「自民党の税制調査会」
「望まない受動喫煙」を防ぐ努力義務はどこへ
「あれ、ここも無くなったのか」――。 防衛力強化のための「たばこ増税」が迫っているにもかかわらず、行政機関や事業所、新幹線の車内などで喫煙所の閉鎖が相次ぎ、喫煙者が途方に暮れる日々が繰り返されている。 【一覧】大逆風なのになぜ…「JT株」を分析して見えた「珠玉の高配当」5銘柄 喫煙所は、関係者に対し、健康増進法が「望まない受動喫煙」を防ぐ方策として、その設置を努力義務としてきた。 ところが、政府の最新調査を見ると、学校、医療・児童福祉施設、行政機関で、敷地内を全面禁煙にしていない施設のうち、実に4割近くが特定屋外喫煙場所を設けていない。 今年3月には、今なお特別たばこ税の税収で旧国鉄債務の肩代わりを受けているJRグループがドル箱にしている東海道、山陽、九州各新幹線が車内の喫煙室を全面的に廃止する“事件”があったことも記憶に新しい。 国民があまねく負担義務を負い、平和という便益を享受すべき防衛費を、20歳以上の15%しかいない喫煙者だけに負担させるというたばこ増税の不合理は、国防充実の喫緊性から甘受せざるを得ない。しかし、たばこ増税を強いる政府には、率先して喫煙所を十分に確保し、非喫煙者と喫煙者が快適に過ごせる環境を整備する責務があるはずだ。 税制改正のご多分に漏れず、たばこ増税を決めたのは、政府の公的機関ではなく、「密室での決定」との批判が絶えない、与党・自民党の税制調査会(会長:宮沢洋一・参議院議員)だ。
表明された「2段階増税」断交の方針
党税調はまず、2022年暮れの税制改正大綱で、「3円/本相当の引上げを、国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保した上で、段階的に実施する」と頭出しした。 次いで、昨年暮れ決定の税制改正大綱で、「たばこ税については、加熱式たばこと紙巻たばことの間で税負担の不公平が生じている。同種・同等のものには同様の負担を求める消費課税の基本的考え方に沿って税負担差を解消することとし、この課税の適正化による増収を防衛財源に活用する。その上で、国税のたばこ税率を引き上げることとし、課税の適正化による増収と合わせ、3円/1本相当の財源を確保することとする」と、2段階の増税を断行する方針を表明した。 今年末の税制改正大綱では、より具体的な増税スケジュールを示し、来年中にも実施に移すことになるとされている。 とはいえ、すでにたばこ税には十分な重税感がある。 財務省によると、2022年度の国と地方を合わせたたばこ関連の税収は、2兆1400億円だ。国と地方にとってかけがえのない大口財源である。その内訳は、国(たばこ税や特別たばこ税の合計)、地方がそれぞれ1兆700億円となっている。 国に限ると、たばこ税の税収全体に占める割合は1.4%で、これは消費税(税収に占める割合が30.2%)、所得税(同30.1%)、法人税(同24.9%)、相続税(同3.9%)、揮発油税(同3.0%)、酒税(同1.6%)に次ぐ7番目の大型財源だ。