なぜRIZINバンタム級GP”大本命の”朝倉海がベテラン扇久保に敗れる波乱が起きたのか…右拳骨折アクシデントと公開プロポーズ
海は、第2試合で瀧澤との準決勝に臨み、3-0で判定勝ちしていた。決勝までの試合間隔は7時間あまり。利き腕の右拳に骨折が判明した状態で戦えば、必然的に勝機を見出せなくなる。絶望的な状況で海は腹をくくり、捨て身の作戦を立てた。 「まずは痛み止めの注射を何回か打ってもらった。拳が壊れてもいいと思っていたので。それでも右手で打ちにいきながら、左手を上手く使って組み立てていこうと」 両者は2020年8月の「RIZIN.23」で顔を合わせている。このときは海が1ラウンドから跳び膝蹴りでダウンを奪い、パウンド、顔面への膝蹴り、さらにはサッカーボールキックと追撃。TKO勝ちでバンタム級王座決定戦を制した。扇久保はこのときとスタイルを180度変えて臨んできた。 「前回は頭のなかが打撃だけという状況になってしまった。なので、今回は16年間、自分が取り組んできたすべてを出そうと。(井上も海も)打撃は突出して強いんですけど、僕は打撃、レスリング、寝技とすべてができるので、そこで勝負しようと思っていた」 扇久保が特に重視したのが、カーフキックからテイクダウンに持ち込むこと。 それも海が見舞ってくるワンツーを見極め、シングルレッグで組みついて引き倒す。 「ただ、2ラウンド目に一発効かされてしまって。相変わらずパンチ力が強かった」 痛みをこらえて放った海のパンチは、扇久保の身体を確実に痛めつけた。それでも絶対に引かないと自らに言い聞かせた。脳裏には堀口が徹底してカーフキックを見舞い、海からTKO勝利をあげた「RIZIN.26」の残像が色濃く刻まれていた。 「絶対にカーフキックは入ると思っていた。たった1年で絶対に修正できないと思っていたから、(カーフキックから)早くテイクダウンに入っていく作戦でした」 愚直な地上戦の積み重ねが、ポイントだけでなく海の体力をも確実に奪っていった。最終3ラウンドにはフックを大きく空振りした海が、反動でバランスを崩す場面もあった。すかさず扇久保が上から攻め立て、直後に試合終了が告げられた。