“億万長者”も登場 世界でも注目の「ゲーム実況」とは?
しかし、近年、そうした状況は大きく変わりはじめています。筆者がそれに気づいたのは、2012年に開催されたニコニコ動画のユーザー交流イベント「ニコニコ超会議」の初回でした。夜に開催されたニコニコユーザーが集うライブイベントに、「最終兵器俺達」などの男性人気「ゲーム実況者」が登場すると、会場中に女性の歓声が響き渡りました。その歓声の大きさは、初音ミクが透過スクリーンに登場した瞬間をも超えていたかもしれません。以降、ゲームのプロモーション配信やリアルでのライブイベントに、「ゲーム実況者」が頻繁に出演するようになりました。また、ヴィジュアル系バンドやジャニーズなど様々な女性向け娯楽ジャンルから若い女性ファンが移る現象もあるようです。 また、日本における「実況者」のスターのような人気ぶりは、個人がゲームを制作するインディゲームの趨勢にも大きく影響を与えています。若者に人気のアブや鎌首(かまくび)などの実況者たちが積極的に素人の作ったインディゲームを紹介してきたことで、中高生に人気が広がったのです。例えば、KADOKAWAから小説化が発表された人気ゲーム『クロエのレクイエム』は、キヨという実況者による紹介がブレイクのキッカケになっています。
ゲーム実況の人気の秘密は「親しみやすさ」にあります。そもそもゲーム自体が国内総売上1兆円を超える、大きな市場規模で身近な娯楽です。しかも、「実況」は、表現手段が音声なので、誰もが参加でき、表現方法も多彩です。視聴者の側も、かつて個室で若者が深夜テレビやラジオを楽しんだように、実況者が悲鳴を上げたり喜んだりする動画を、食事などをしながら楽しんでいる人も多いと聞きます。 ただ、いくつか問題もあります。先日の東京ゲームショウ2014では、PS4に追加された実況動画の投稿機能が、欧米でのゲーム実況人気に一役買った一方で(トゥイッチはまさに投稿先の一つです)、日本では、この機能があまり人気がないと話題になりました。また、YouTubeで収入を得る「ユーチューバー」にゲーム実況は大人気ですが、先に触れたピューディパイのような大金を日本のユーザーが得ることは、言語の壁があるために難しいでしょう。そして、実況者によるゲームの実演が、ゲームの販促プロモーションに効果があると気付いたゲーム会社は増えましたが、依然として著作権はセンシティブな問題です。ゲーム実況に女性向けのイメージが強くなりすぎて、イベントは盛り上がっているものの一時期の勢いはなくなってきたのではないか、という指摘もあります。こうした問題をどう克服していくかが今後、日本のゲーム実況文化の発展のカギになっていくでしょう。 ーーーーーーーーー 稲葉ほたて(いなば・ほたて) ネットライター。 インターネット上の現象をビジネス・文化の両面から取材・分析する。