鹿児島県警の不祥事巡る百条委は「設置自体が再発防止策になる」と専門家は指摘するが…重い役割担う県議会の判断は? あす9日、注目の採決
鹿児島県警の相次ぐ不祥事を巡り、県議会に調査特別委員会(百条委員会)の設置を求める決議案が9日、最終本会議で採決される。「不祥事の隠蔽(いんぺい)を図ったのではないか」という指摘を県警は一貫して否定しているが、疑惑を払拭するだけの客観的な説明はできていない。強制力のある調査権を持つ百条委を求める声は根強く、専門家からは「設置すること自体が再発防止策にもなる」との見解も聞かれる。 県警情報漏えい 前刑事部長名かたり文書送付「名誉害し極めて悪質」…委員会審査で県警幹部、公益通報を改めて否定 百条委設置求める陳情は継続審査に 鹿児島県議会
「性犯罪への対応がなぜこんなに遅いのか。警察官の犯罪を隠蔽しようとしたように見える」。鹿児島市喜入町の元教員北由利子さん(62)は県警への不信が募り、県議会に百条委設置を求める陳情を出した。「黙っていられなかった。誰がどんな指示をしたのか明らかにしてほしい」と解明を望むが、北さんらの陳情は「継続審査」となっている。 県警の不祥事は2020年以降、分かっているだけで10件を超え、うち7件は女性への性犯罪がらみだ。南日本新聞の取材で未発表の事件が明らかになるなど“身内”への姿勢が消極的に映ったことに加え、国家公務員法(守秘義務)違反の罪に問われている前生活安全部長が、元枕崎署員による盗撮事件について「野川明輝本部長が隠蔽を指示した」と訴えたことでさらに疑念は深まった。 ■ ■ 盗撮事件を巡っては、野川本部長が枕崎署に捜査を任せ、その際の伝達ミスで捜査が一時止まったと県警は説明している。捜査を巡っては県警OBからも「顔見知りの同僚ではなく、県警本部が捜査すべき」「中断理由が伝達ミスという説明はさすがに苦しい」と疑問の声が上がる。ただし、警察庁が隠蔽はなかったと結論づけており「余程のことがない限り覆らないだろう」とみる元捜査幹部もいる。
志布志事件の弁護を担った野平康博弁護士は「捜査指揮の事後チェックが重要だ」と説く。捜査指揮の行使が市民に向けて積極的だった(自白調書がいくつも作られた)同事件とは対照的に、警察内部へ向けては消極的だったとし、「警察官の犯罪に対しては積極的に事件を受理し、指揮を執るべき」と指摘する。 「捜査に着手してよいか指揮を伺う書類に誰が押印し、どんな指示をしたか事後検証すれば、捜査指揮が適正だったか分かる。適正な捜査が担保されないと冤罪(えんざい)の温床となり、犯罪被害者も保護されない。根幹が揺らいでしまう」と危機感を持つ。 ■ ■ 県議会では、県民連合が6月に百条委設置を議会運営委員会で提案したが、最大会派の自民党県議団が9月、「裁判と並行した調査は不可能」との理由で設置を見送った。「警察庁や県公安委員会が(野川本部長による)隠蔽の指示はなかったと結論づけており、われわれは信じるしかない」と発言する議員もいた。
鹿児島大学法文学部の三上佳佑助教(憲法学)は「強い権限を持って県警組織を調べる場を設けることで、県民が県警に強い関心と懸念を示しているという状況ができあがる」と百条委設置の意義を強調する。「裁判と並行した調査が不可能という指摘は的外れ。たとえ事実が全て明らかにならなくても、百条委設置が一番の再発防止策になる」と、県警の信頼回復に果たす議会の役割を重くみる。 県民連合が提出し、9日に採決される決議案は「司法権に関する項目は除く」とした内容。公明党は調査権を持たない特別委員会の設置を提案している。
南日本新聞 | 鹿児島
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