プロジェクトの大半が「予算」をオーバーする納得の理由…人が予測を大きく外す瞬間
大小かかわらず、官民問わず、さまざまなプロジェクトが進行する中で、「予算内、期限内、とてつもない便益」という3拍子を揃えられるのは0.5%に過ぎない。 【写真】「仕事速いね!」と言われる人が意識している、たった3つのコツ 中でも橋やトンネル、高速道路、鉄道といった大型建設工事プロジェクトの実績は芳しくない。世界中のプロジェクトの「成否データ」を1万件以上蓄積・研究するオックスフォード大学教授が、予算内、期限内で「頭の中のモヤ」を成果に結びつける戦略と戦術を解き明かした『BIG THINGSどデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか? 』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
出だしからつまづいた大型プロジェクト
デンマークは半島と東部の多くの島からなる国だ。デンマーク人は、古くから渡し船の運転や橋の建設を得意としていた。そのため、政府が1980年代末に「グレートベルト」プロジェクトを発表したのも、当然の成り行きと言えた。これは首都コペンハーゲンのあるデンマーク最大の島と、2番めに大きい島を2本の橋で結ぶという壮大な計画で、そのうちの1本は世界最長の吊り橋となる予定だった。 計画にはヨーロッパで2番めに長い鉄道用海底トンネルの建設も含まれ、デンマークの企業が工事を請け負った。これは興味深いことだった。なぜならデンマーク企業はトンネル掘削の経験がほとんどなかったからだ。 私はこのニュースを、橋やトンネルの建設に従事する父と一緒に見ていた。「馬鹿な話だ」と父は腹立たしげに言った。「あれだけ大きい穴を掘るのに、なんで経験者を雇わないのかね」 プロジェクトは出だしからつまずいた。 まず4台の巨大なトンネル掘削機の納入が1年遅れた。次に、掘削機を地中に入れたとたん、機械の欠陥が発覚して設計変更が必要になり、さらに5か月の遅延が生じた。そしてようやく、掘削機は海底をゆっくり掘り始めた。 海上では橋の建設業者が、海底の土砂を取り除くための巨大な浚渫(しゅんせつ)船を配置して、現場の準備を整えた。作業中は船を固定するために太い支持脚が海底に降ろされた。作業が終わり支持脚を引き上げると、海底に深い穴が残り、そのうちの1つは偶然にもトンネルの進路上に空いていた。だがその時点では橋の建設業者もトンネルの掘削業者も、その危険性に気づいていなかった。 掘削開始から数週間後のある日、4台の掘削機のうちの1台を停止して、点検作業をしていた。現場は沖合約250メートル、水深約10メートルの海底だ。すると、掘削機の前方から水が浸入してきたので、掘削に不慣れな作業員が、水を汲み出すポンプを持ってきて、マンホールからケーブルを引き込んで機械につないだ。 そのとき突然、トンネル内に大量の海水が流れ込んできた。水の勢いからして、トンネルのどこかに穴が開いたのは明らかだった。作業員は直ちに退避させられ、ポンプやケーブルを取り外してマンホールを閉じる暇もなかった。 その結果、穴から入った海水が、掘削機とトンネル全体を冠水させただけでなく、開いたマンホールを通って並行する別のトンネルとその中の掘削機までをも水浸しにしてしまったのだ。