「追いかける立場にはなっていない」ファイナルの完敗で王者・宇野昌磨に再び火が付いた!
12月9日まで北京で開催されたフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナルを終えた宇野昌磨(26・トヨタ自動車)。連覇が懸かった舞台で19歳のイリア・マリニン(米国)に17・32点の大差をつけられての2位に終わったが、直後の記者会見で力強いまなざしでこう言い切った。 【写真】勝負師の顔に…宇野昌磨・もう一度頂点を目指す決意の表情 「シーズンに入る前は、ここまでハイレベルな戦いになるとは思ってなかったので、結構楽しい。こうやって競い合っていきながら、でもお互いが仲良く、仲間として切磋琢磨して、より高いところをお互いに目指し合えるっていう環境はすごく楽しいです。そうやって僕は、ネイサンさんとか、ゆづ君と一緒にやってきたんで。(その時は)僕は全然置いていかれましたけど、今回は置いていかれないように頑張りたいなと思っています」 今後のフィギュア男子を長く牽引するだろう新星の台頭で、冬季五輪で2014年ソチ、2018年平昌を制した羽生結弦(29)、2022年北京王者のネイサン・チェン(米国・24)打倒へ死にものぐるいで練習していた頃の熱がふつふつとわき出ていたのだ。 昨季は出場した大会、全てで圧勝した。ファイナルを初制覇し、世界選手権も危なげなく2連覇。孤独な戦いを余儀なくされ、時折、競技会へのモチベーションの低下を口にすることもあった。今季初戦となった11月10、11日のGP第4戦中国杯後でもそうだった。ショートプログラム(SP)首位からフリーでアダム・シャオ・イム・ファ(フランス・22)に逆転負けした後も悔しさはみじんも見せなかった。 「自分が優勝するより、自分の身近な人とか一緒に練習している人とか、今回のアダム君とかが優勝して、喜んでいる姿を見るとすごく嬉しいなって思える。それぐらい、自分自身の結果に対する気持ちとか、競技に対する闘争心が今、薄いんだろうなっていうのは思いました。競技会に対して、結構やりがいを持って、時には楽しいって思いながら練習する日もありますが、何をモチベーションにやっていくのかっていうのは……。結構、『どうなるんだろう?』という気持ちはありました。試合に対する気持ちの持ち方で比べたら、絶対にみんなのほうが『ここで絶対やりきるんだ』っていう強い思いがあると思う。僕はやっぱりネイサンさんとか、ゆづ君がモチベーションになっていた」 競技スポーツとしての向き合い方が見つからず、どこか達観した姿が寂しかった。結果ではなく、自分の理想の表現力を求めることを公言して臨んだ新シーズンを本人もこう振り返る。 「(今季のテーマを)自己満足って掲げるくらい、目標が見つかっていなかった。自分が何をしたいのか。自分の中でモチベーションを探すという時期を1年以上過ごしてきました」 しかし、11月24、25日のGPシリーズ最終戦、NHK杯で鍵山優真(20・オリエンタルバイオ/中京大)に競り負け「久々に勝負事として見られた」と語った頃から少しずつ心境に変化が生まれたのだろう。 ファイナル開幕前日の公式練習の後には「今年は多分ノーミスに近い、ジャンプで1個ステップアウトとか、そういうレベルの演技をしなければならないと思っている。見るぶんにはすごく面白いと思います。やっぱりスポーツって、こういうハイレベルなギリギリの戦いが男の視点からすると面白い」と述べた。勝負師としての顔が隠せなくなってきていたのだ。 ファイナルはSPから手に汗握る戦いだった。先に滑った宇野が4回転フリップなど3つのジャンプを完璧に決め、スピン、ステップは最高難度のレベル4、表現力を示すPCSは3項目全てで9点台中盤をそろえる総合力の高さを見せつけ、今季世界最高の106・02点をたたき出した。一方のマリニンは唯一無二の超大技クワッドアクセル(4回転半ジャンプ)をSPで世界初成功。4回転ルッツ、3回転トーループの連続ジャンプも決めて圧倒的な技術点をマーク。106・90点で宇野を上回った。 2日後のフリーはマリニンの独壇場だった。冒頭のクワッドアクセルは転倒したが、最高難度のルッツ2度を含む4種類、計5度の4回転ジャンプはいずれも高さがあり、クリーンな着氷でまとめた。課題だった表現面でも観客を引き込み、PCSの3項目全てで8点台後半に乗せた。チェン、羽生に次ぐ世界歴代3位の合計得点。宇野も「今の自分に対しては100点をあげたい」と応戦したが、ジャンプでのミスもあって、力及ばなかった。 最大限の力を尽くさなければ太刀打ちできないライバルの登場に喜びをあらわにしたのは、翌日の一夜明け会見でのことだ。 「ジャンプのスキルで彼にかなう人は、下手したら数十年いないと思う。それくらい飛躍しすぎているというか。フィギュアスケート界、誰かが跳べたらどんどん跳べるようになるという風潮がありましたけど、さすがにやばいと思いますね、あのジャンプは。ちょっと飛び抜けすぎているというのがあるので、今後一強になることは間違いないと思います」 そうマリニンを持ち上げた宇野はこうも語った。 「僕は(強敵が現れたほうが)やりがいがありますね。目標があったほうが。みんながどういう気持ちなのかは分からないですけど。ネイサンさんはすごいなと思いますね、一強で4年間やり続けて。同じクオリティで居続けたので。何がモチベーションだったんだろうというのは気になりますけど。マリニン君がこれからどういう思いを持ってスケート界を引っ張っていくか分からないですけど、僕は追いかける立場になったつもりはないですし、ちゃんと一緒に引っ張っていけたらなと思います。今季いっぱいはマリニン君とちゃんと戦える存在として頑張ります、マジで」 笑いも交えつつ、時折見せる真剣なまなざし。どんな演技で対抗していくのか。三連覇が懸かる来年3月の世界選手権(モントリオール)での進化した姿が見られるのが楽しみだ。 取材・文:秦野大知
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