「アナキズム」は本当に過激思想? 見えてきた実像は「相互扶助」だった 見直し進み、出版相次ぐ
「アナキズム」が見直されている。私が歴史の授業で習った記憶では「無政府主義」と訳されていた。政府や国家を打倒し、無秩序な社会の混乱を目指す過激な思想―。そんな暴力的イメージがあったアナキズムが今、なぜ注目されるのか。(共同通信=大木賢一) ▽続々出版 ここ数年で出版されたアナキズムに関する本は多い。ざっと挙げただけでこれだけある。 「アナキズム入門」(森元斎、2017年、ちくま新書) 「実践日々のアナキズム―世界に抗う土着の秩序の作り方」(ジェームズ・C・スコット、2017年、岩波書店) 「アナキズム 一丸となってバラバラに生きろ」(栗原康、2018年、岩波新書) 「他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ」(ブレイディみかこ、2021年、文芸春秋) 「くらしのアナキズム」(松村圭一郎、2021年、ミシマ社) 「アナキズムを読む 〈自由〉を生きるためのブックガイド」(田中ひかる編、2021年、皓星社)
「学校で育むアナキズム」(池田賢市、2023年、新泉社) いずれも「無政府主義」という恐ろしげな訳語からは距離を置き、身近で軟らかな視点を重視した記述が目立つ。暴動などの行為を一部肯定する本もあるが、アナキズムについておおむね「個人の自由を追求する暮らしの中での考え方」のようなものととらえている。 ▽没後100年 関東大震災から100年の今年は、明治・大正期の日本を代表する無政府主義者(アナキスト)、大杉栄(1885―1923)と伊藤野枝(1895―1923)の没後100年の年でもある。 事実上の夫婦だった2人は、震災の混乱に乗じた憲兵隊に連行され、暴行の末に絞め殺された。手を下した甘粕正彦大尉の名から「甘粕事件」と呼ばれるこの思想弾圧事件はあまりに凄惨で、粛清されたアナキストの側にも何か激烈なイメージを与えてきた。 ▽そもそもの意味 アナキズムの語幹「アナーキー」とはそもそもどんな意味なのか。「明鏡国語辞典」を引くと「無政府・無秩序の状態であること。秩序を無視していること」とある。別の辞書では「無統治状態」となっていた。混沌とした混乱状態を志向する考えだと理解されても仕方ない。